熊本で地震を経験された方の中には、眠れない、また揺れるのではないかと怖い、地震のことが頭から離れない、少しの物音にもびっくりする、何も考えたくない、以前のように生活できない、と感じている方もいるかもしれません。
震災のような大きな出来事を経験した後には、心と体にさまざまな反応が起こります。その多くは、異常な出来事を経験した後に起こる自然なストレス反応です。本記事では、熊本の震災後に起こりやすい心と体の反応と、回復していくときに大切なことについてご紹介します。
目次
震災後、心と体にはさまざまな反応が起こります
大きな地震を経験すると、私たちの心と体は「危険に備える状態」になります。地震そのものが収まっていても、心と体がすぐに元の状態へ戻るとは限りません。以下に危険に備える状態のいくつかをジャンル分けで紹介します。
身体に起こりやすい反応
・なかなか眠れない
・夜中に何度も目が覚める
・悪夢を見る
・少しの揺れや物音にびっくりする
・地震速報に強く反応する
・動悸がする
・息苦しくなる
・体がこわばる
・食欲がなくなる
・疲労感が続く
・揺れていないのに揺れているように感じる
感情に起こりやすい反応
・不安
・恐怖
・イライラ
・怒り
・悲しみ
・涙が出る
・無力感
・何も感じなくなったように思う
思考に起こりやすい反応
・地震の場面が何度も浮かぶ
・また地震が起こるのではないかと考え続ける
・集中できない
・判断しにくい
・頭がぼんやりする
・地震について考えないようにする
行動に起こりやすい反応
・地震に関するニュースを避ける
・被災した場所に近づけない
・外出したくない
・人に会いたくなくなる
・一人でいたくなる
・反対に、一人でいることが怖くなる
このような反応があるからといって、すぐに心の病気だということではありません。
「症状がある=PTSD」ではありません
震災後に不眠、不安、悪夢、フラッシュバックのような反応があると、
「PTSDになったのではないか」
と心配になることがあります。しかし、震災直後に強いストレス反応があることと、PTSDになることは同じではありません。危険な出来事を経験した後には、心と体がしばらく警戒を続けることがあります。
その後、少し眠れるようになり、食事が取れるようになります。また人と話せるようになったり、外に出られるようになったりし、地震のことを思い出しても、以前ほど長く苦しまずに済むようになります。こうした変化が少しずつ生じてくることがあります。症状が完全になくなっていなくても、回復の方向へ動いていることはあります。
今、無理に震災のことを話す必要はありません
被災後、つらかったことは誰かに話した方がいい、と言われることがあります。もちろん、自分から話したいと思ったときに、信頼できる人に話を聴いてもらうことは助けになる場合があります。
しかし、話したくないときに、無理に震災体験を話す必要はありません。詳しく聞かれることが、かえって負担になる場合もあります。話したいところだけ話したり、途中でやめたり、また今日は話さない。それでも構いません。大切なのは、周囲の人のペースではなく、自分のペースで体験と関わることです。
今は、早く元気になる必要もありません
震災後、早く元気にならなければ、と頑張ってしまう方もいます。しかし、大きな災害を経験した後に、すぐ前と同じ状態へ戻る必要はありません。怖いときは、怖くても構いません。悲しいときは、悲しくても構いません。疲れているときは、休んでも構いません。重要なのは、感情をすぐになくすことではありません。
むしろ、感じても大丈夫、と思える状態が少しずつ戻ってくることが大切です。怖くなっても、また戻ってこられる。悲しくなっても、その感情にずっと飲み込まれ続けない。誰かと一緒なら、震災について少し話すことができる。そのような変化も回復の一つです。
今も「危険が続いている」と感じるのは自然なことです
災害後の心の状態を考えるとき、地震から何日たったか、だけで考えることはできません。地震そのものが収まっていても、
・余震への不安
・自宅に戻れないこと
・避難生活
・睡眠不足
・暑さによる疲労
・大雨や台風などへの心配
・仕事や学校の見通し
・家族の生活再建
などが続いている場合があります。このような状態では、体にとってはまだ、危険はすべて過ぎ去ったとは感じられないかもしれません。そのため、緊張や不安が続いているからといって、自分を責める必要はありません。
まずは、しっかり眠て、食べる。水分を取る。休む。そして正確な情報を得る。安心できる人とつながる。そうした、今の生活を支えることが重要です。
「避けること」が悪いわけではありません
震災後、地震のニュースを見たくなくなったり、被災した場所へ行きたくなくなったり、地震について話したくないと思うことがあるかもしれません。これは自然な反応です。つらいものから一時的に距離を取ることが、自分を守るために必要なこともあります。
ただし、時間の経過とともに、地震の話やニュースを避けたり、外出、人と会うこと、または感情を感じることまで避ける、というように、避けるものがどんどん増えていく場合には注意が必要です。
大切なのは、無理やり向き合うことではありません。少しずつ「体験しても大丈夫」と思える範囲を取り戻していくことです。
回復しているかを見るポイント
震災後の回復を考えるとき、ストレス症状だけを見る必要はありません。例えば、少し長く眠れるようになった、悪夢が減った、食事が取れるようになった、人と話せるようになった、外出できるようになった、仕事や学校について考えられるようになった、地震を思い出しても、しばらくすると今に戻れる、など、こうした小さな変化も回復です。症状の有無よりも、体験できることや生活できる範囲が少しずつ広がっているかを見ることが大切です。
本記事のまとめ
熊本の震災後には、不安、不眠、悪夢、過覚醒、フラッシュバック、怒り、悲しみ、ぼんやりする感じ、何も感じない感覚、地震を避けたくなることなど、さまざまな反応が起こります。
こうした反応があるからといって、すぐにPTSDだということではありません。大きな災害の後には、心と体がまだ危険に対応している途中であることがあります。今すぐ元気になる必要はありません。少しずつ日常と体験との関わりを取り戻していくことが回復につながります。
一方で、時間が経っても改善が見られない、避けるものが増え続ける、生活範囲が狭くなる場合には、専門家への相談を考えることも大切です。トラウマ治療をいつ考えればよいのか、どのような治療があるのかについては、次の記事で詳しくご紹介します。