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この記事を読まれている人の中には、過去のつらい出来事による影響に苦しみ、「この苦しみから本当に回復できるのだろうか」と考えている人もいらっしゃると思います。

一方で、トラウマ治療について調べると、「トラウマは治療できる」「過去の記憶から解放される」といった希望の持てる情報を目にすることがあります。それを読んで、「治療を受ければ、すぐに以前の自分に戻れるのではないか」と期待する人もいるでしょう。

希望を持つことは、とても大切なことです。

しかし、トラウマ治療では希望だけでなく、現実についても知っておくことが重要です。

トラウマからの回復は、一直線に進むとは限りません。良くなったと思った後に、また苦しくなることもあります。治療を始めたことで、それまで避けていた感情や身体感覚に気づき、一時的につらさを感じることもあります。それでも、治療を通して回復していく可能性はあります。

本記事では、トラウマ治療について研究から分かっていることをもとに、「希望と現実のバランス」について考えてみたいと思います。

トラウマ治療の研究でわかっていること

PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対しては、これまで数多くの心理療法が研究されてきました。その中でも、トラウマに焦点を当てた認知行動療法や持続エクスポージャー療法、認知処理療法、EMDRなどについては、多くの臨床研究が行われています。

そして研究全体から見えてくる重要なことがあります。トラウマによる苦しみは、治療によって改善する可能性があるということです。

これは非常に大切な知見です。トラウマを体験すると、もう一生このままなのではないかとと感じることがあります。しかし、研究が示しているのは、必ずしもそうではないということです。

適切な心理的援助を受けることで、再体験、回避、過覚醒などの症状が軽減し、生活を取り戻していく人がいることが分かっています。つまり、トラウマを経験したことと、その苦しみが一生続くことは同じではありません。ここには十分に希望を持ってよいと思います。

ただし、全員が同じように回復するわけではない

一方で、もう一つ知っておく必要があります。治療研究では平均的には症状の改善が認められていても、すべての人が同じ治療によって、同じ速度で、同じ程度まで改善するわけではありません

これはトラウマ治療を考えるうえで、とても重要な点です。ある人には非常に効果的だった治療が、別の人には十分な効果をもたらさないことがあります。数回の治療で大きく変化する人もいれば、長い時間を必要とする人もいます。

また、一度良くなったように感じた後、仕事や人間関係のストレス、事故、災害、喪失などをきっかけに、再び症状が強くなることもあります。だからといって、それまでの治療が無駄だったということではありません。人間の心理的な回復は、右肩上がりの直線のように進むとは限らないからです。

「治る」とは、記憶が消えることではない

トラウマ治療について、もう一つ誤解されやすいことがあります。それは、治療が成功すれば、つらい記憶がなくなる、という考えです。

基本的に、心理療法は過去に起きた出来事そのものを消すことはできません。交通事故が起きたこと。災害を経験したこと。大切な人を失ったこと。暴力を受けたこと。そうした過去そのものを書き換えることはできません。

しかし、その出来事が現在の自分に与えている影響は変わる可能性があります。以前は思い出しただけで身体が強く反応していた出来事を、少し落ち着いて思い出せるようになる。避け続けていた場所に行けるようになる。突然浮かんできた記憶に飲み込まれず、「これは過去のことだ」と感じられるようになる。自分を責め続けていた出来事について、違う見方ができるようになる。

こうした変化も、トラウマからの重要な回復です。治療の目標は必ずしも「忘れること」ではありません。過去の出来事に支配されず、現在を生きられるようになることと考えたほうが、実際の回復に近いでしょう。

「早く治さなければ」が治療を苦しくすることもある

トラウマの苦しみが大きければ大きいほど、「早く治したい」と思うのは当然です。そして現在では、比較的短期間で大きな改善がみられるトラウマ治療もあります。そのこと自体は希望です。

しかし、「○回で治るだろう」と考えてしまうと、治療そのものが新たな苦しみになることがあります。

トラウマからの回復には個人差があります。また、「症状があるか、ないか」だけでは捉えられない変化もあります。以前より早く落ち着けるようになった。苦しくなっても、人に助けを求められるようになった。身体の反応に気づけるようになった。避けていたことに少しずつ取り組めるようになった。感情が揺れても、「また戻れる」と思えるようになった。こうした小さな変化も、回復の重要な一部です。

希望と現実のバランス

では、トラウマ治療に対して、どのような期待を持てばよいのでしょうか。私は、次の二つを同時に持っておくことが大切だと考えています。

「人はトラウマから回復することができる」という希望。そして、「その回復の仕方や時間は、人によって異なる」という現実。この二つは矛盾するものではありません。

むしろ、両方を持っていることが重要です。希望だけを強調すると、「治療を受ければすぐに治るはずだ」という期待につながることがあります。そして期待通りにいかなかったとき、「自分は治らない人間なのではないか」と感じてしまうかもしれません。

反対に、現実の難しさだけを強調すると、「どうせ治らない」と治療を諦めてしまうかもしれません。必要なのは、その中間です。

簡単ではないかもしれない。でも、変わる可能性はある。トラウマ治療について、私はこのくらいの位置から考えることが大切なのではないかと思っています。

何をすべきか

もし現在、トラウマによる苦しみを抱えているのであれば、「完全に治るのか」を最初から決める必要はありません。まずは、「今より少し楽になることはできるだろうか」というところから考えてみてもよいでしょう。

トラウマ治療にはさまざまな方法があります。また、同じ「トラウマ」という言葉で表現されていても、その人が経験した出来事、その後の人生、現在の症状、身体反応、人間関係、利用できる支援などは一人ひとり異なります。

そのため、「有名な治療だから」「効果があると書いてあったから」という理由だけでなく、自分の状態を理解したうえで、自分に合った治療や援助を一緒に考えてくれる専門家につながることも重要です。

NEXTカウンセリングでは、トラウマの問題に対して、ブレインスポッティングをはじめとした心理的援助を用いながら、一人ひとりの状態に合わせた支援を行っています。

「早く治さなければ」と焦るのではなく、現在起きていることを丁寧に理解しながら、その人にとって必要な回復を目指していきます。

まとめ

本記事では、トラウマ治療における「希望と現実のバランス」についてお伝えしました。

トラウマによる苦しみは、決して変わらないものではありません。研究からも、適切な心理療法によってPTSD症状が改善する人がいることが示されています。

一方で、すべての人が同じ方法で、同じ速度で回復するわけではありません。回復の途中で再び苦しくなることもありますし、治療を受けても症状が完全になくならない場合もあります。

だからこそ、「必ずすぐ治る」と考える必要もなければ、「もう一生治らない」と考える必要もありません。過去を消すことはできなくても、過去との関係は変わることがあります。

苦しくならないことだけが回復ではなく、苦しくなったとしても、そこから戻れるようになることも回復です。トラウマ治療に必要なのは、過剰な期待でも、諦めでもありません。

「変わる可能性はある。でも、自分のペースで進んでよい」そんな希望と現実の間に立ちながら、回復への道を探していくことが大切なのだと思います。