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― コロナ禍を中心に考える「見えない傷」とその回復 ―

本記事では2回に分けて、集合的トラウマについて、特にコロナ禍で生じたものを中心に、学術的知見を述べたいと思います。今回【前半】は、まず集合的トラウマについて専門的な知識をご提供しています。

集合的トラウマとは

まず、集合的トラウマとは何かを明確に定義しましょう。集合的トラウマとは、戦争、災害、パンデミック、テロ、大規模事故などによって、個人だけではなく「社会全体」が心理的な傷を負う状態を指します。

通常のトラウマは、個人の体験として理解されます。しかし集合的トラウマでは、社会全体が同じ脅威や恐怖を共有します。そのため、個人の心の問題にとどまらず、人間関係、社会制度、価値観、文化、世界観そのものに影響を与える特徴があります。

特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、世界規模の集合的トラウマでした。感染への恐怖だけではありません。「誰が感染源かわからない」「大切な人を失うかもしれない」「先が見えない」など、慢性的な不安が、長期間にわたって人々を覆いました

さらにコロナ禍では、「自粛」「隔離」「分断」が社会全体で生じました。本来、人間はストレス時ほど他者とのつながりを必要とします。しかしパンデミックでは、そのつながりそのものが危険視されました。

その結果、多くの人に以下のような変化が生じました。

  • 人を信用しづらくなる
  • 他人の咳や接近に強い警戒を感じる
  • 外出そのものに不安を感じる
  • 常にニュースを確認してしまう
  • 以前のように人前で自然に振る舞えない
  • 将来への安心感が失われる

これは気のせいではありません。長期的な脅威にさらされた脳と身体が、生存のために適応した結果なのです。また集合的トラウマは、直接体験者だけに生じるわけではありません。医療従事者、家族、子ども、ニュース視聴者、SNS利用者など、間接的に暴露された人々にも広範囲に影響します。特にコロナ禍では、毎日の死亡報道があったり、医療崩壊の映像、SNS上の対立、孤立などによって、慢性的な心理的緊張状態が社会全体に広がりました。

集合的トラウマは、異常な状況に対する正常な反応です。したがって、症状が出ること自体は弱さではありません。むしろ、人間として自然な防衛反応だと言えます。


コロナ禍で生じた集合的トラウマ

コロナ禍は、従来の災害トラウマと異なる特徴を持っていました。地震や戦争は、いつ起きたか、が比較的明確です。しかしパンデミックは、終わりが曖昧でした。そのため、常に警戒し続け、緊張を解除できず、また安全感が回復しない、という状態が長期間続きました。

またコロナ禍では、人が脅威にもなりました。近づくことや話すこと、集まることなど、本来安全だったものが、危険かもしれないと感じられるようになったのです。その結果、人間関係そのものにトラウマ反応が生じるケースも少なくありませんでした。

例えば次のようなケースも確認されてます。

  • 人混みで動悸がする
  • マスクを外すことに強い不安がある
  • 他人との距離感がわからなくなる
  • 会食に罪悪感を感じる
  • 咳をすることに強い羞恥を感じる

これは、脳が「他者=危険」と学習した結果とも言えます。

集合的トラウマ関連の心の病

ASD(急性ストレス障害)

ASD(急性ストレス障害)は、強いストレス体験後に生じる自然な反応です。パンデミック初期には、医療従事者や感染者、遺族、また隔離経験者などに、多く見られました。

症状としては、フラッシュバック、強い不安、解離、過覚醒、回避などが含まれます。多くの場合、時間経過とともに軽減します。

PTSD(外傷後ストレス障害)

PTSD(外傷後ストレス障害)は、トラウマ反応が長期化し、生活に大きな支障を与える状態です。コロナ禍では特に、ICU勤務者、家族を失った人、長期隔離経験者、また医療従事者などでPTSD症状が多く報告されました。

パンデミック型PTSDの特徴は、終わりが曖昧だったことです。脅威が長期間継続したため、脳が安全状態へ戻りづらくなったのです。

Moral Injury(道徳的負傷)

近年、戦争やパンデミックに関連して注目されている概念がMoral Injury(道徳的負傷)です。

これは、助けられなかった、見捨ててしまった、本来の倫理観に反する行動を取ったなどという体験によって生じる深い心の傷です。コロナ禍では、面会制限がありましたし、また医療資源不足や、最悪のケースなど、命の選別などもありました。これらは、医療従事者や家族に深い罪悪感を残しました。

以上、コロナ禍の影響を中心に、集合的トラウマについてまとめました。次は、そこからの回復をテーマに知見を述べていきたいと思います。