小児気逆境体験(ACEs)という言葉を聞いたことがありますか?子ども時代の健全な発達に望ましくない体験を表します。虐待(心理、身体、性的虐待)と家族不和(アルコールや薬物の問題、心の病、家族内の暴力、犯罪)で定義される体験で、該当する項目が多いほど、子どものその後の人生に悪影響を与える度合いが強くなるとされています。

図 報告されている主なACEの影響(いらすとやの画像を使用し著者が作成)
図で示されたよな影響の他、人間関係がうまくいかない(たとえば親密なパートナーの暴力)は、次の世代への連鎖も生じることも示唆されています。
また、ACEにより多大な経済的コストが関係していることも示されています。コストには、ACE の影響を受ける個人とその家族の生産性が減り、刑事犯罪に関するコスト、また 慢性疾患や障害の医療費が含まれます。このコストは、国の年間国内総生産の平均 3%、最大で 6% とされており、大きな社会問題であると認識されています。
個人の人生においても、社会全体においても、影響の大きなACEですが、実際どのくらいの数の人が、そのような体験をしているのでしょうか。その問いに答えるために行われた最近の調査について、本記事ではご紹介したいと思います。
ACEはどのくらい頻繁に起こる?
業界では最も影響力のある学術雑誌であると言われるWorld Psychiatryに2023年に掲載された研究(Madigan, et al., 2023)は、22カ国の50万人の成人被験者を含む、206の研究を分析したメタ分析の研究です。この分析によって様々なことが分かりました。
- 全く虐待がなく家族もうまくいっていた被験者は39.9%
- 少なくとも1つのACEがあった被験者は60.1%
- 重いACEがあった被験者は16.1%
かなり多くの人にACEがあることがわかります。これは過去の行われた研究とおおよそ同じですが、以前のものよりも数がやや増えています。次に、もう少し細かい結果を示していきます。
- 心の病がある被験者ではACEの割合は47.5%
- 物質乱用や依存(アルコールや薬物)がある被験者ではACEの割合は55.2%
- 貧困の被験者ではACEの割合は40.5%
- 被験者が浮浪者の場合はACEの割合は59.7%
この結果から、ACEはその後の人生に影響を及ぼす可能性があることがわかります。では最後に人種によるACEの違いを示します。上記で示した頻繁なACEを体験した被験者(16.1%)の内訳です。
- ネイティブ・アメリカン(40.8%)
- 白人(12.1%)
- アジア人(5.6%)
以上から、アジア人では重いACEはやや少ないことがわかります。
まとめ
本記事をまとめます。本記事では、小児期逆境体験(ACE)について、それがどのくらい頻繁であるのかということを、最新の研究からご紹介しました。ACEと定義される虐待や家族不和は、決して珍しい体験ではなく、現在その影響を受けている人たちでは、かなり高い割合でACEを体験しています。またアジア人では、比較的に重いACEは少ないようです。
以上、本記事ではACEの割合について示しましたが、また別の記事でACEの具体的な影響について触れていきたいと思います。
Madigan, S., Deneault, A. A., Racine, N., Park, J., Thiemann, R., Zhu, J., Dimitropoulos, G., Williamson, T., Fearon, P., Cénat, J. M., McDonald, S., Devereux, C., & Neville, R. D. (2023). Adverse childhood experiences: a meta-analysis of prevalence and moderators among half a million adults in 206 studies. World psychiatry : official journal of the World Psychiatric Association (WPA), 22(3), 463–471. https://doi.org/10.1002/wps.21122