先日の記事(逆境的小児体験体験とは?)では、逆境的小児体験(ACE)とは何か、そしてどのくらい多くの子が体験しているのか、ということについて触れました。本記事では、ACEが、子どものそれからの人生にどのような影響を及ぼすのかについて、心の健康という視点で述べます。
ACEの心の健康への影響
2021年に出版された、ACEと心の健康の研究(Sahle et al., 2021)をご紹介します。この研究では、最終的に67のシステマティック・レビュー研究を分析しました。システマティック・レビュー研究は複数の研究をまとめて研究する手法ですから、複数の研究をまとめて研究したものをまとめて研究したのが本研究です。
この研究では、どのACE(逆境的小児期体験)が心の健康問題と関連があるか、そしてどの心の健康の問題と関係があるかを調べました。以下でそれぞれ説明します。
心の健康問題と関係があるACE
67のシステマティック・レビューから見出された心の健康問題と具体的なACEは次の通りです。
- 親との離別
- 両親(あるいは片親)の精神疾患
- 両親(あるいは片親)の慢性疾患
- 親や友達の自殺あるいは自殺未遂
- 両親(あるいは片親)の投獄あるいは移住者収容
- 離婚
- 両親の不仲
- いじめ
- 虐待(身体的、心理的、性的虐待)
- 両親(あるいは片親)からの不適切な養育(虐待とは言えないも健全な子どもの発達を阻害する行為)
- ネグレクト
- 厳しすぎるしつけや過干渉
- 養子縁組
- 人種差別や性的差別
- 国外への引越し
- 暴力や戦争にさらされる
- ホームレス体験
- 非難民キャンプでの生活
日本人にはあまり馴染みのないもの(移住者収容や戦争にさらされるなど)も含まれますが、子どもがこれらの体験をすると、心の健康問題に関連していることが分析によりわかりました。離婚、厳しすぎるしつけや過干渉、また程度の問題ではありますが、ネグレクトなど、グレーゾーンがあり、これらを体験している子は少なくはないのではないでしょうか。また震災で地域や自宅を失い、仮設住宅などで生活することも、ACEの1つとして含まれるかもしれません。では次に、どんな心の健康問題と関係しているかを述べます。
ACEと関連のある代表的な心の健康問題

この研究では、次の4つの心の健康問題におおよそ2倍程度のリスクがあることを見出しました。つまりACEを持つことにより①不安障害(パニック、恐怖症、PTSDなどを含む)、②内在化障害(うつ病や全般性不安障害などを含む、内部に問題をきたす問題。恐怖、不安、身体の訴え、引きこもりなど)③うつ病、④自殺傾向の4つのリスクが2倍程度高まります。それぞれもう少し詳しく述べましょう。
- 不安障害:ACEの中で特に虐待、離別、差別、暴力、いじめ、親の慢性疾患が不安障害のリスクと関係する
- 内在化問題:ACEの中でも、不適切な養育が最も内在か問題に関連する
- うつ病:ACEが少なくとも1つあるとリスクが高まり、特に不適切な要因、身体的虐待、性的虐待、いじめがうつ病と関連する
- 自殺傾向:ACEの中でも特に、虐待、親の精神疾患、家族の不和(機能不全家族)が自殺傾向と関連する
ACEが心の健康に及ぼす影響はここで紹介したものにとどまりません。また、因果関係(逆境的体験を受けたから不安障害になるなど)は特定されてはいませんが、ACEは、子どもの発達に大きな影響を与えるであろうということはほぼ確実に言えるでしょう。
まとめ
本記事をまとめます。本記事では逆境的小児期体験(ACE)が心の健康に与える影響について述べました。67のシステマティック・レビューを分析した研究では、具体的なACEの種類が見出され、そしてその影響としての4つのカテゴリーの心の健康問題のリスクがおおよそ2倍になることがわかりました。
Sahle, B. W., Reavley, N. J., Li, W., Morgan, A. J., Yap, M. B. H., Reupert, A., & Jorm, A. F. (2022). The association between adverse childhood experiences and common mental disorders and suicidality: an umbrella review of systematic reviews and meta-analyses. European child & adolescent psychiatry, 31(10), 1489–1499. https://doi.org/10.1007/s00787-021-01745-2