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タカ心理学博士の考え方:心理援助について PHILOSOPHY

NEXTカウンセリングでは、各相談者に対するカウンセリングの質を高めるために、スーパービジョン(SV)制度を取り入れています。人材不足や費用面から、SV制度を取り入れている医療機関やカウンセリング機関は非常に稀です。本記事ではSVとは何か、またNEXTカウンセリングではどのようなSVを行なっているのかをお伝えします。

スーパービジョン(SV)とは

SVは、どの分野/業界にもある、サービスの質を向上するための学びの機会です。カウンセリングの分野では、APA(アメリカ心理学会)が、最善のSVを提供するための指南としてガイドラインを発表しています。ガイドラインでは、スーパーバイザーが着目すべき7つの領域が定義されており、質の高いSVの提供を促しています。

スーパーバイザーの仕事は大きく2つに分けられます。1つ目が受ける人(現役カウンセラーやカウンセリングを学ぶ学生)の能力の開発です。現役カウンセラーがSVを受ける理由がこれです。2つ目が受ける人(主にカウンセリングを学ぶ学生)のgatekeeping(門前払いをする)です。カウンセリングを受ける相談者たちの利益のために、適正のない学生を断ったり再教育をしたりします。

スーパービジョン(SV)の効果

カウンセリングと同じように、SVにも多数のやり方が存在しています。色々なやり方で実施されるSVをまとめて研究して、その効果を調べ上げるメタ分析という研究も多数なされています。その中で最新のものを参照したいと思います。

2021年に掲載された論文(Keum&Wang)では、SVにおける12の研究を調べました。SVの実施とその効果(治療関係、相談者の満足度、そして治療効果)に何かしらの関係があるかを分析しました。すると、それらには弱い相関関係が見られ、SVはカウンセリング効果全体の4%を占めることがわかりました。4%は大きな数字で、抗うつ薬では2%と言われています(Wampold&Imel, 2015)。つまり、SVをすることにより、SVを受けるカウンセラーのカウンセリング効果は高まるのです。

一方で、SVには色々な方法があり、どれが効果が高く、どれが低いのかは分かっていません。その中で、別分野で効果が保証されている方法が、近年カウンセリングの分野でも取り入れられました。それが「意図的な練習」を含むSVです。

意図的な練習

千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手が、日本プロ野球界で16人目の完全試合を果たしたことは、野球ファンなら記憶に新しいかと思います。その偉業は、奪三振数などにも記録を残し、見ているものを感動させるものでもありました。

その佐々木投手の偉業は、もちろん佐々木投手に実力があったからなされたのですが、その裏には名指導者である吉井理人コーチの存在がありました。吉井コーチは、指導の際に振り返りを大事にし、一緒に考え、そして自らの答えを導き出すような関わりをするそうです。

そういったコーチの大きな1つの役割が、選手に「意図的な練習」(できないこと、苦手なことをできるようにする)を促すということです。試合の中で牽制(盗塁を避けるために塁上にいる走者の様子を伺いながら、そちらに投球する作業)のミスを見逃さなかったコーチは、ピッチャーに「牽制を100球投げなさい」と個別化した練習メニューを与え、苦手なことをうまくできるようにします。

コーチの存在は、野球に限らずあらゆるスポーツや音楽など、パフォーマンスが関わるすべての分野において認められています。佐々木投手の例のように、パフォーマーとしての力を伸ばしていくにはコーチは欠かせない存在です。カウンセリングの分野では、スーパービジョン(SV)を実施するものとしてスーパーバイザー/コンサルタントがコーチ的な役割をします。

そしてSVには様々な方法がありますが、スポーツや芸術、その他のパフォーマンス分野でコーチが指導するのと同じ、この「意図的な練習」を取り入れたSVの方法(Rousmanierer et al., 2017)が近年開発され、注目を集めています。

意図的な練習を含んだスーパービジョン(SV)の具体例

NEXTカウンセリングでは、非常勤のカウンセラー(短期カウンセリング)が相談者を担当する場合、意図的な練習(できないこと、苦手なことをできるようにする)を中心としたSVを実施しています。SVを通じて、担当する相談者へのカウンセリングの質を高めます(下図)。1つずつ説明しましょう。

  • 情報共有と方針決定
  • 方針に沿ったカウンセリング・セッション後の振り返り
  • スーパーバイザーからの具体的な指導・意図的な練習
  • より良いカウンセリングセッション

情報共有と方針決定

NEXTカウンセリングでは事前ヒアリングを実施しています。それらを通じて、①相談事の根底にある考え、感情、行動、精神活動の症状②それら症状の成り立ち③それら症状の支障度合いを押し測ります。またベストなカウンセラーを選ぶために、カウンセリングに関する相談者の好みを調べています。例えば、考えを変えたいと思うのか、その根底にある感情を変えたいと思うのか、などです。

これらの情報をスーパーバイザーが担当カウンセラーと会って話し合います。そしてこの情報に基づいて、どのような方向性でカウンセリングを実施していけば良いのかを話し合います。またカウンセラーの不安を取り除くために、スーパーバイザーが質問に応じたり、またカウンセラーを勇気づけたりします。

方針に沿ったカウンセリング・セッション後の振り返り

情報を得て方針が決まった担当カウンセラーは、予定された日時にカウンセリングを実施します。カウンセリングでは、担当カウンセラーは、方針に従いながらも柔軟に相談者に応じます。そして相談者の問題解決のために必要な取り組みを行います。カウンセリングを実施後に、カウンセラーはセッションを振り返る機会を与えられます。振り返りはカウンセラーのパフォーマンスにおける問題点についてフォーカスされ、どこが改善されるべきか、をカウンセラー自身が見出します

スーパーバイザーからの具体的な指導・意図的な練習

セッション後の振り返りに基づき、さらにカウンセリングを実施していく中で3セッションに1回のペースで、スーパーバイザーとカウンセラーが会う機会を作ります。そこまでのカウンセラーのパフォーマンスをスーパーバイザーが評価し、問題点を特定し、そして改善に向けた努力を促すことが目的となります。そのために、セッションの録画をスーパーバイザーとカウンセラーは共に見ます。そうすることで、スーパーバイザーは客観的な視点でカウンセラーのパフォーマンスを評価することができます。

録画を見ながら、スーパーバイザーは「どこがさらに良ければより効果的なカウンセリングになるのか」を考え、その点が見つかったら「意図的な練習」のメニューを作ります。これはコーチがピッチャーに「カーブを100球投げなさい」というメニューを作るのと同じです。例えばNEXTカウンセリングで実施している「ブレインスポッティング」では指示棒を手に持って、それを左右に動かすという作業をしますが、その動きがぎこちなく、プロフェッショナル性を相談者が疑うような一面が見られたとします。その際に次のようなメニューを言い渡します。「鏡を見ながら、スムーズにゆっくりと指示棒を左右に100回移動する」などです。

意図的な練習では、効果を損なわせるような特定の発言や特定の動きなどに着目し、それを練習によって克服することを目指します。上記で説明したように、この練習が、カウンセラーの力を向上させられる数少ない方法の1つであることが分かっているのです。

より良いカウンセリングセッション

練習を遂げたカウンセラーは、特定の発言や行為に関して改善しているので、より良いカウンセリングを提供できるようになっています。練習で成し遂げ、新しいスキルが身についたカウンセラーは、より自信を持って次のセッションに臨むことができるのです。

本記事のまとめ

本記事は、NEXTカウンセリングでも取り入れているスーパービジョン(SV)を説明しています。SVは専門家の能力向上や専門家の学生のモニタリングのためにする行為です。一般にSVは治療効果と関係があり、その中でも近年注目される「意図的な練習」を取り入れたSVはその高い効果が期待されます。意図的な練習はスポーツなどの分野でコーチが選手の能力を高めるために行われる中心的な内容です。NEXTカウンセリングでは、セッションの録画をスーパーバイザーとカウンセラーが一緒に振り返り、できないこと苦手なことを指摘した上で、練習を実施する取り組みをしており、カウンセリングの質の担保に専念しています。