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タカ心理学博士の考え方:心理援助について PHILOSOPHY

心理学を指導している大学の授業で、学生と次の様なやりとりをしたことがあります。

Dr.Taka:どうして怒りの感情が僕たちにはあると思う?怒りは社会を変えるために異議を唱える力となります。

生徒:先生の場合はどうですか?

Dr.Taka:僕の場合は、メンタル・ケアの現状に対して異議を唱える力となっているかな。もし僕に怒りがなかったら、この授業でも無難なこと言って終わらしているし、専門家たちに熱心に指導して、リスクを冒してまで、僕たちが歩むべきと僕が信じる道を示したりはしないです。そう考えると、とてもつまらない仕事人生になっていそうな気がします。


どんな仕事領域でも、改善の余地が残されているということは、疑いの余地がありません。メンタル・ケアに関しても同様で、大きく前進すべき点が多々あります。それらの原因は、十分に研究が進んでいないことにありましょう。また、誤った思い込みが原因である場合もあります。そういった思い込みの中でも、根本的な誤り(例えば猫は胎生であるにもかかわらず、それを卵生であるとみなして、猫の赤ちゃんの健康について考えるといった前提の誤り)は、多大な潜在的利益の損失を起こしているように思えます。以下ではその様な考えを述べたいと思います。

「作られた」世界と「物質的な」世界

メンタル・ケアの領域で黙認されている根本的な誤りは「心は実際にある」と考えられている点です。「心」は本来構成概念です。人がある現象に名前をつけて作り出した概念であり、物質ではありません。つまり「心」は人の心臓でもなく脳の細胞でもありません。同様に、例えば「自信」「うつ」「自我」など、心理系の読み物にはよくみられる言葉も、全てそれに該当する物質はありません。それらは構成概念と呼ばれ、人が命名し定義して作り上げた架空のものです。メンタル・ケアは、概念によって(元々なかったものが)人によって「作られた」非物質的な世界の営みです。

一方で、多くの専門家が、この事実を知らずか知っていて無視しているのか、メンタル・ケアに関する科学領域(特に心理学)を、物質的な世界の営みであると誤解をしています。物質的な世界というのは、5感で体験できる対象が実在する世界です。今僕の目の前にはMac Bookがあり、wordpressの画面がモニターに映っています。そしてスピーカーからはフレンチなアコーディオンの音色が流れてきており、またエアコンから吹き出される涼しい空気の流れを肌で感じています。ヘーゼルナッツの香り漂うコーヒーを左手に、僕はMac Bookのキーボードでこの文章を叩きでしているのです。これらは全て実際に有るものであり、物理的なものです。人が定義して初めて存在する(例えばうつという概念)ものではありません。人がいようといまいと、そこに有るものです(もちろん、Steve Jobsという人がいなかったらMac Bookは作られませんし、多くの物が人の手で作り出されたものですが、それらは物理的なものです)。

現代におけるメンタル・ケアの営みは、この誤解が前提にあります。この誤解を後押しするのが、医学です。医学では、偽薬を使うことで、物質的に効果のある薬剤を作り出します。本物の薬と偽薬とを比較して、特定のメカニズムで特定の症状を軽減される程度が、統計的に偽薬より多いと十分に分かると、それらは認可されます。それを臨床で使用するのです。あらゆる医学の分野で、このように物理的に作り出された薬を使用しますし、メンタル・ケアに関わる精神科・精神科・心療内科などもそうです。

メンタル・ケアに関わる領域(特に心理学)は、医学に肩を並べるために、自らを「科学的」な営みで有ると主張し、薬が認可されるのと同じ様な科学的手法で、心理学的な「薬」を作り上げてきました。それがいわゆる心理療法です。しかし残念なことに、メンタル・ケアは「作られた」世界の営みです。人の欲・習慣・情報が、複雑に絡み合って政治的に変化するものが「作られた」世界です。同じ悩みの状態(例えばうつ)であっても、人それぞれです。欲しいもの(例えば人からの賞賛)が得られないことが強く影響してうつになっている人もいれば、不規則な生活やコントロールできない思考などのうつになる習慣を続けているためにうつになる人もいます。またネット情報から「自分はうつに当てはまる」と思い思い込んでうつになる人もいます。実際はこんなに単純ではありませんが。

その様な複雑なルールの中で、科学的手法によって作られた物理的なルールは、制限された形でしか役に立つことはありません。マクドナルドのユーザーの不特定の1人が、最高に美味しいと思う新しいハンバーガーを作り上げるために、特定の地域の特定の時期における1000名が、どのハンバーガーを購入したかに関するデータを使う様なものです(実際はもっと複雑です)。つまり、心理療法は、作られた世界の不確実性(予想できない)や特有性(個人個人で異なる)に到底追いつく(対応する)ことができず、期待されたような成果を上げることは不可能なのです。


心理療法の効果は関係性にある

下のグラフは、心理療法において本当に効果がある要因について示しているものです。これらは研究に研究が重ねられた末に見出されたものです(Wampold, 2015)。縦軸が効果を意味しており、縦に長い要因がより効果がある要因であるということを示しています。統計学で「効果量」という概念があります。その効果の程度(このグラフだったら治療結果にどの程度関与しているかという程度)を示す概念で、科学では信頼のおける指標です。

それを踏まえて見てみると、左側の「関係性」の要因の方が効果量が高いことがわかります。(二重線で区切られた)右側が「心理療法」の要因の効果量を指しています。関係性の要因の中には、協力、共感、セラピストの裏表のなさや肯定的な関心があげられます。これらと心理療法の差は一目瞭然です。

NEXTカウンセリングでは、この関係性の効果を十分に高めるためのカウンセリングを提供しています。そのために必要なのが、相談者の希望に沿うこと(関係性の要因のいくつかをカバーしています)、共同して取り組むこと、そして共感的なケアを提供することです。また、関係性は常に変わるもので、適切な関係性を維持するためには、そこには第三者の監督が必要となります。NEXTカウンセリングでは、スーパービジョン制を取り入れ、熟練した専門家であるDr.Takaがカウンセラーのスーパービジョンにあたり、良好な関係性の維持に努めています。