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この記事を読まれている人は、きっと何かしらの形でパニックの問題に苦しまれていることだと思います。そしてその中には「もう10年以上パニックが治らないでいる」という人もいらっしゃることでしょう。私(タカ心理学博士)は、そのように長期的に苦しむ人をたくさん見てきました。そういった場合、本記事のタイトルを読んで「身も蓋もない」と感じるかもしれません。

本記事では、パニックに対する早期の介入で、他問題(他の精神疾患)の併発を防ぐことができ、苦しみが減る可能性について述べたいと思います。本記事は、次の論文を参考にして書かれています。

Peter de Jonge, P., Roest, A. M., Lim, C. C., Florescu, S. E., Bromet, E. J., Stein, D. J., Harris, M., Nakov, V., Caldas-de-Almeida, J. M., Levinson, D., Al-Hamzawi, A. O., Haro, J. M., Viana, M. C., Borges, G., O’Neill, S., de Girolamo, G., Demyttenaere, K., Gureje, O., Iwata, N., Lee, S., … Scott, K. M. (2016). Cross-national epidemiology of panic disorder and panic attacks in the world mental health surveys. Depression and anxiety33(12), 1155–1177. https://doi.org/10.1002/da.22572

パニックの国際的な調査でわかった(ていた)こと

オランダ、Groningen大学の行動社会学教授であるPeter de Jonge博士とその他の研究者たちは、2016年に国際的なパニックの疫学調査結果を発表しました。日本含む25カ国、14万人以上の被験者が関与するこの調査で、パニックに関する国際的な知見を得ることができました。以下概要です。


  • 人生のうちでパニック発作を少なくとも1度は体験する人は100人に13.2人
  • そのうち66.5%が複数回のパニック発作を体験している
  • パニック発作を少なくとも1度体験している人の中の12.8%がパニック障害となっている
  • 複数回パニック発作を体験している人は様々な精神疾患と関連がある
  • 1度だけパニック発作を体験している人と、様々な精神疾患との関連はない
  • パニック障害を患う人は100人に1.7人
  • パニック障害を患う人の80.4%が別の精神疾患を併発している

以上のように多くの注目に値する知見が見出されましたが、本記事の趣旨として、その中の2つ(マーカー部)に着目して、その意義をお伝えします。

パニック発作を起こす回数で予後が大きく異なる可能性

因果関係は明確ではありませんが、この調査ではパニック発作を起こす回数(1回OR複数回)でその後の精神疾患の罹患率が大きく異なることがわかりました。端的に言うと、パニック発作を1回だけ起こした場合は、その後別の精神疾患に罹患することは少なく、複数回の場合は多いということです。

疾患名 発作1回後の罹患(%) 発作複数回後の罹患(%)
大鬱病322.5
双極性障害2.229
全般性不安障害3.325.8
社交不安障害3.427.9
恐怖症3.521.5
パニックを伴わない広場恐怖症4.237.1
外傷後ストレス障害(PTSD)431
間欠性爆発障害(怒りの問題)2.720.9
摂食障害1.224.1
アルコール乱用3.216.6
アルコール依存321
薬物乱用3.325.6
パニック発作の回数と精神疾患の関連

表を見ていただくとお分かりの通り、発作を1度だけしか起こしたことのない人の中で3%のみが大鬱病に罹患するのに対して、発作を複数回起こしたことがある人の22.5%が大鬱病に罹患していたことが分かりました。他の疾患に関しても、同様の違いが見られ、総じていうとパニック発作を複数回起こすことと、高い割合で併発する精神疾患には関連があるということです。発作を複数回起こすと、別の精神疾患になりやすいということを意味しているわけではありません。しかし、繰り返されるパニック発作が別の疾患を誘発する可能性もあります。この辺りは十分に研究が進んでおらず、まだ詳しい仕組みはわかっていません。

繰り返されるパニック発作

なぜ繰り返しパニック発作が生じるのかを十分に説明できる理論はありません(少なくとも私は把握していません)。ここからは私(タカ心理学博士)の臨床経験に基づいた私見となります。大きく分けて2つの視点で説明する必要があります。1つ目がパニック発作体験の性質。もう1つがパニック発作を体験する人の性質です。1つ1つ検証していきたいと思います。

パニック発作体験の性質

パニック発作は恐ろしい体験であるということはパニックを治すために必要なことで述べてきました。なぜ恐ろしいかというと、死やそれと同様(あるいはそれより酷い)体験が目の前に差し迫っているとリアルに感じられるためです(日本には腹切りという概念もあったように、個体が死ぬよりももっと酷いと感じられることがあるようです)。この事象は、PTSD(外傷後ストレス障害)の基準に当てはまってもおかしくないように思えます。そして発作体験は、思い出され、避けられ、気分や考えを変容させ、そして身体を興奮させます。つまり、パニック発作自体がPTSDの事象となりトラウマ症状ないし(1ヶ月以上経った上で)PTSD症状を引き起こすとも考えても良いでしょう。トラウマ症状/PTSD症状として思い出される症状(再体験)のために、発作が繰り返し体験される(つまり最初の発作エピソードの再体験をしている)という考え方もできます。つまり、パニック発作自体が、トラウマ反応を引き起こし、トラウマ反応のために、パニック発作を繰り返し再体験する可能性もあるのではと考えます。

パニック発作を体験する人の性質

パニック発作を体験する人がどのような人であるかにより、その後引き続き発作が体験されたりされなかったりするのではないか、というのがもう1つの考え方です。こちらは改めて記事としてご紹介したいと思っています。

何をすべきか

では、この知見をどう活かしていけば良いのでしょうか。因果関係は分かりませんが、データが示すところは、複数回のパニック発作を起こすことで、その後の人生がより苦しいものになるように思えます。なので、できるだけ早く(できるだけ2回目を起こさないように)発作を止めるための介入の重要性を物語っています。NEXTカウンセリングでは、パニックの問題に対して多くの人を救ってきたタカ心理学博士が開発したレニハン認知療法を用いて、早期にパニック発作ゼロを目指す援助を提供しています。またパニック発作によるトラウマを解消するブレインスポッティングを用いて、より早期な解決を目指しています。

まとめ

本記事では、14万人以上を被験者とした、パニックの国際的な疫学調査で見出された発作体験とその予後についてお伝えしました。パニック発作を起こす回数と、その後の他の精神疾患の併発には関係があり、発作を複数回起こす場合、他の疾患にも苦しむ傾向があるようです。十分調査は進んでいない分野ではありますが、臨床的な経験を通じての1つの考え方として、パニック発作自体がトラウマ体験となり、その後の再体験がなされることが、複数回のパニック発作に関連があるのでは、とお伝えしました。そしてNEXTカウンセリングでは早期の解決を目指した援助を提供しています。