本記事では、トラウマの症状について知り理解を深めたいという方のために、トラウマ症状について専門的な知識をご提供しています。なお、本記事では子どもの症状のみに言及をしており、大人のトラウマ症状に関しては、別の記事で紹介します。
なお、本記事の内容は、アメリカ合衆国保健福祉省内の組織である薬物乱用および精神保健サービス局から発行されている治療マニュアル”Trauma-Informed Care in Behavioral Health Services“(2014)、コネチカット州より発行されている”Trauma-Informed Care Practice Guide“(2016)、”Workforce Centra for Child Mental Health“、そして”Australian National University” (2010) を参考に作成されています。
子どものトラウマとは
トラウマ症状とは(大人)でもお伝えしましたが、トラウマとは心の傷を指し、心身への害、あるいは恐怖が伴う出来事への暴露の際に生じるものです。特に子どもにおいては、強い恐怖心や無力感を感じるような体験によりトラウマが生じます。特に子どもに当てはまるような出来事は次の通りです。
子どものトラウマは大人とは異なった影響を子どもにもたらします。子どもは発達の途中であり、その体験が発達に影響を与えるためです。生きることに関する様々な分野でそれらの影響が見られますが、それらには他者への信頼、感情のコントロール、行動のコントロール、認知の働き(言語、注意、学習の問題など)、自信、人間関係が含まれます。トラウマはその子や家族の日々の生活やその子の将来に深刻な影響を与えます。
- ・虐待
- ・ネグレクト
- ・家庭内暴力
- ・両親の離婚などによる別れ
- ・死別
- ・学校や地域で体験や目撃をする暴力
- ・大きな怪我や事故
- ・重篤な疾患
以下、トラウマを示唆する症状を年代別にお伝えしていきますが、子どもがトラウマ体験をし、その影響を受けているかどうかを調べる簡易的なスクリーニングを用意しました(Lang&Cornell, 2017を参考に作成)。ご自分のあるいは周囲のお子さんに関して懸念がある方は、どうぞお使いください。留意していただきたいのが、子どもには耐性があり、多くの子どもにおいては、トラウマ的な体験をしたとしても、その症状は一時的であり、問題が長引くことは少ないこともわかっているということです。
トラウマ症状(子ども)
トラウマ体験への反応は、年齢によって大きく異なることがわかっています。以下、5つの年代に分けてそれぞれの主なトラウマ症状をお伝えします。
0歳〜2歳までのトラウマ症状
この時期にトラウマ体験をすると、その後の人生に大きな影響を特に与えかねません。人や世界への信頼が崩れ安心・安全の感覚が損なわれる可能性があるからです。そのような場合、養育者は極力対象の子から離れないようにするのが良いと考えられています。
以下、子どもがトラウマ体験をした際に生じる主な反応を挙げます。
- 覚醒度合いの高まり(眠りが妨げられる、びっくりしやすくなる、なだめにくくなる)
- 食欲の変化(食欲にムラがあったり食欲がなくなる)
- 退行(以前できていた発達上の課題、例えばハイハイ、ができなくなる)
- 発声の変化
- 行動の変化(イライラする、癇癪を起こす、気まぐれに振る舞う、注意を引く、攻撃的になる)
- 過度な養育者への執着(離れた際に泣く、注目をするよう要求する)
- 反応の低下(感情的な反応が薄くなる、麻痺したような様子を見せる、アイコンタクトをしない、周囲の環境や物に対する興味の低下する)
- 泣き止まない
- トラウマ事象を思い出させるものへの警戒(目で見えるもの、音、匂いなど)
2歳〜4歳までのトラウマ症状
この年代の子どもはハイリスクと言われています。つまりトラウマ体験後の予後が好ましくないということです。1つの理由に、トラウマ体験後の反応をADHDであるだとか、反抗的であるだとか、素行が悪いだとかと誤って解釈されがちだからです。
以下、子どもがトラウマ体験をした際に生じる主な反応を挙げます。
- 覚醒度合いの高まり(眠りが妨げられる、大きな音でびっくりしやすくなる、集中力が減る、なだめにくくなる)
- 食欲の変化(食欲にムラがあったり食欲がなくなる)
- 赤ちゃん返り(以前できていた発達上の課題、例えば歩行やトイレができなくなる)
- 自信の欠如
- 悲しかったりうちにこもっている表情
- 身体愁訴の増加(腹痛や頭痛を訴える)
- 行動の変化(イライラする、癇癪を起こす、気まぐれに振る舞う)
- 集中困難、注意の欠陥
- 自身や他人への攻撃(頭を叩く、殴る、噛み付く)
- トラウマ体験の再体験(トラウマ体験に関する遊びをしたり絵を描く、悪夢を見る、出来事を繰り返し語る、繰り返し質問をするなど)
- 分離不安や養育者や教師への過度な執着(離れた際に泣く、注目するよう要求する、部屋に1人でいようとしない)
- 養育者に何か酷いことが起きるのではないかという不安
- 他者への執着
- トラウマ事象に関係のない恐怖(暗闇、モンスター、動物など)
- トラウマ事象を思い出させるもの回避や目で見える苦痛(目で見えるもの、音、匂い、味、身体体験など)
- 反応の低下(感情的な反応の欠如、麻痺したような様子、アイコンタクトの欠如、家族や教師、友達と関わらなくなる、遊びへの興味低下、新しいことをしなくなる)
- 養育者、兄弟、友達との人間関係が困難になる
5歳〜12歳までのトラウマ症状
この年代におけるトラウマ体験は、学業や学校でのあり方に影響を与えます。思春期を迎えた子、それ以降の子、あるいは大人と同じようなトラウマ症状を呈しますが、下記に示すように、特有の症状も生じることがあります。
以下、子どもがトラウマ体験をした際に生じる主な反応を挙げます。
- 侵入的想起(日中に不愉快な記憶を思い出す、悪夢を見る、思い出させる物に対して身体感情的な反応をする、出来事に関しての繰り返し語る、トラウマ記憶に関する遊びをする)
- 回避(トラウマ事象に関係する学校での活動に参加しない、出来事を語らない、出来事に関する重要な部分を忘れる)
- 身体の覚醒状態と反応性の変化(イライラしたりキレる、集中が難しくなる、過度に覚醒する、心配や過度に驚くことが増える、寝られない)
- 気分や考えの変化(無感情のように見える、トラウマ事象に対して何も感じない、かつて楽しんでいた活動へ興味を無くす
- 感情的な苦痛(自分を責めるたり罪悪感を感じる、気分が不安定になる、泣いたり怖がったりする)
- 行動の変化(キレやすくなる、攻撃的になる、言うことを聞かなくなる)
- 学業不振(成績が悪化する、欠席する、集中や記憶が悪くなる、やる気がなくなる)
- 身体愁訴の増加(頭痛、腹痛、発疹などを訴える)
- 家族や友達との関わり減少
- 食欲の変化
- 養育者の安全と健康への不安
13歳~18歳までのトラウマ症状
大人への移行時期であるこの年代のトラウマ体験は、この年代において益々重要になってくる学校やその他の友達関係や学校でのあり方に大きく影響を与えます。以下、子どもがトラウマ体験をした際に生じる主な反応を挙げます。
- 再体験(日中に不愉快な記憶を思い出す、悪夢を見る、思い出させる物に対して身体感情的な反応をする、出来事に関しての繰り返し語る)
- 回避(トラウマ事象に関係する学校での活動に参加しない、出来事を語らない、出来事に関する重要な部分を忘れる)
- 過覚醒(怒りをコントロールしにくくなる、集中がしづらくなる、驚きやすくなる、眠りづらくなる)
- 感情的麻痺(無感情に見えたり感情的に麻痺しているように見える、あるいは少ししか感情を示さない)
- 感情的苦痛(自責や罪悪感を感じる、気分が不安定でイライラする、自信を失う、自分がおかしくなってしまうのではないか、異常なのではないかと心配する)
- 行動の変化(キレやすくなる、攻撃的になる、言うことを聞かなくなる)
- 学業上の問題(欠席する、集中や記憶が低下する、やる気がなくなる、権威者(先生など)と問題を起こす、学業が遅れる、反抗的な態度を取る)
- 楽しい活動に楽しさを感じない(スポーツをする、絵を描く、演奏や歌を歌う、音楽を聴くなど)
- 身体愁訴の増加(頭痛、腹痛、発疹などを訴えるなど)
- 苦痛な感情に対処するための飲酒
- リスクがあったり無謀な行動(性行、ヘルメットなしでバイクに乗るなど)
- 自殺や自分を傷つける考えや行動
- 家族や友達との人間関係の問題(引きこもる、社交的なイベントを避ける、攻撃的、反抗的な行動を取る)
- 食欲の変化
- 将来への希望喪失
本記事のまとめ
本記事では、子どものトラウマ症状についてお伝えしました。子どものトラウマ症状は、その発達段階や置かれた状況が異なるので、年齢ごとに異なります。いずれにしても症状は一時的であることが多いですが、症状が長引くケースも稀ではありません。トラウマ体験が繰り返されたり、慢性的であると、長引く症状が発達に大きく影響を与え、感情のコントロール、ネガティブな自己イメージ、人間関係の問題を呈しやすく、生きにくさを抱えた大人へとなっていくおそれもあります。