トラウマ関連の心のケアを考えるうえで、専門家が欠かせない理解として、 PTSD と C-PTSD(複雑性PTSD) を見分けることが挙げられます。名前は似ていますが、その成り立ちや症状の出方、日常への影響は大きく異なります。
本記事を読んでいるのが、トラウマを抱えた方であれば「自分の状態はどちらが近いのだろう?」そう思いながら読み進めてみてください。
目次
1. PTSD:単回の強い衝撃によって起こる反応
事故、災害、身体的暴力、事件など強烈な恐怖を伴う出来事を経験した後、心と身体がそのショックを処理しきれず反応が残る状態を指します。
特徴としては、
- 原因となる出来事が明確である
- フラッシュバック(再体験)や悪夢が起こりやすい
- 怖さを思い出させる状況を避けるようになる
- 身体が常に警戒モードになり、過覚醒が続く
単回の大きなショックによって生じる「一つの出来事に対する心身の反応」という軸を持っています。そのためか、早期の改善が生じやすい問題でもあります。私の臨床経験の中でも、数回でトラウマの影響から脱することができた方も少なくはありません。
2. C-PTSD:繰り返される長期的なストレスがもたらす深い影響
虐待、DV、戦争体験、支援者不在の環境、人格否定的な扱いなど、継続的・反復的に起こるトラウマ体験によって形成されるのがC-PTSDです。
特徴としては、
- 出来事が一度ではなく、境界が曖昧なまま積み重なる
- 自己否定感、価値の喪失、慢性的な不安が続きやすい
- 対人関係の困難、見捨てられ不安、強い恥の感覚
- 感情調整が難しく、反応が極端になりやすい
単発の傷ではなく、心の構造そのものに深く影響が及ぶ点が大きな違いです。自己像・他者への信頼・世界観に影響するため、回復にはトラウマへのアプローチだけではなく、段階的で丁寧な統合的なアプローチが必要になります。
3. 診断基準の違い
大きなポイントは 症状の中心が「出来事の記憶」か「自己への影響」かという点です。
| 項目 | PTSD | C-PTSD |
|---|---|---|
| 主な原因 | 強烈な一回の出来事 | 長期的・反復的な被害やストレス |
| 中心症状 | 侵入症状・回避・過覚醒 | 上記に加え、自己感覚・対人関係障害 |
| 影響範囲 | 体験に関連する場面が中心 | 自己像・人生観・行動パターン全体 |
PTSDは「ショック体験そのもの」に反応が起こり、C-PTSDでは「人格形成や発達過程に食い込む影響」を残しやすいと言えます。
4. 症状の現れ方の違い
PTSDに多い反応
- 急に映像のようによみがえる(フラッシュバック)
- 関連する音・場所・匂いを避ける
- 眠りが浅くなり警戒心が高まる
- 身体が常に危険信号を発し続ける
C-PTSDに多い反応
- 自己否定、価値喪失、アイデンティティの揺らぎ
- 感情が暴れる、または感じられないほど麻痺する
- 親密さが怖い/過度に依存するなど関係が不安定
- 「普通の優しさが信用できない」という疲労感
「過去の記憶に苦しむ」PTSDに対し、C-PTSDでは 「自分という存在そのものが揺らぐ苦しみ」が見られやすいのです。
5. 認知・行動パターンへの影響
C-PTSDでは、トラウマが【生き方のベース】に影響することがあります。
例として、
- すべて自分のせいだと思ってしまう
- 助けを求めることができない
- 安心・休息を感じられない
- 相手の表情変化に過敏で疲れやすい
これは「弱さ」ではなく、生存のために身についた適応的な反応でもあります。ただし、環境が変わった後も同じ反応が続くと、生きづらさとして表面化しやすくなります。例えば、虐待が日々起きていた家庭環境では、親の様子を伺うのは生き残るために必要な反応だが、独立し虐待のない環境では、不必要な心配や気遣い、そのためのストレスなどの原因になるなどです。
6. 回復のために大切な視点
結論として、どちらの場合でも鍵となるのは 安全な関係性と段階的な回復です。
- 怖さに直接向き合うのではなく安全を感じる場をつくる
- 感情を「押さえる」ではなく「扱う」経験を積む
- 自己否定ではなく「理解」を重ねていく
- 回避せずとも心が耐えられる強さを少しずつ育てていく
技法やセラピーの種類よりもまず、安心して揺らげる場所があることが回復の前提になります。
まとめ
PTSDは「単発の強い恐怖」が中心ですが、C-PTSDは「長期的なトラウマ」が自己感や関係に影響します。二つとも、症状は似ていても背景と回復の道のりは異なります。回復には安全な環境とゆっくりとした自己理解が重要となります。