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― 行動療法的視点から、脱回避のコツを紹介 ―

「これをやるとまた不安になる気がする」「前にあれで失敗したから、似たようなことは避けよう」
…そうしているうちに、少しずつ自分の行動範囲が狭くなってきたように感じている方もいるかもしれません。

実はこの“少しずつ狭くなっていく感じ”、まさに行動療法の世界でいう「回避行動の拡張」の一端を表しています。

私自身、「最初は電車が苦手になっただけだったのに、気づけば人混みも避けるようになって、最近ではスーパーに行くのも怖い」
といった相談を受けることがあります。

では、なぜ回避行動はこんなふうに“広がって”いくのでしょうか。そして、それに気づいたときに私たちはどうやって第一歩を踏み出せばいいのでしょうか。
本記事では、①回避行動が広がる心理的メカニズム、②広がり続ける理由、③縮めていくための第一歩について、行動療法の視点から整理してお伝えします。


回避行動が広がるメカニズム:不安の「誤学習」

行動療法の中核にある考え方の一つが、「行動には結果がある。そしてその結果によって行動は強化されたり、弱まったりする」というものです。
回避行動もまた、強化されていくことで“定着”してしまう行動の一つです。

たとえば、パニック発作を一度経験した方が、
「また発作が起きるのではないか」という不安を避けるために電車に乗るのをやめたとしましょう。
乗らなかったことで、その日は発作も起きず、「今日は大丈夫だった」という安心感が得られたとします。

この“安心感”が、脳にとっては強力なご褒美(報酬)として作用します。
「電車に乗らなければ、不安は起きない」という因果関係を、脳が強く学習してしまうのです。

これを心理学では負の強化(negative reinforcement)と呼びます。
「不安を避けられた=嫌なことがなくなった」という結果が、回避行動を“強化”してしまうのです。


回避が広がる理由:「一般化」と「予期不安」

最初は「電車だけ」だったのに、次第に「バス」「人混み」「スーパー」…と、回避の範囲が広がるのには理由があります。

これは心理学でいうところの刺激の般化(generalization)が関係しています。
かんたんに言えば、「似たような状況も危険かも」と、脳が勝手に“危険マーク”を広げてしまう現象です。

電車で発作を起こした記憶があると、
「密閉された空間」「すぐに降りられない状況」「周囲の視線」など、特定の特徴が“危険のサイン”として刷り込まれます。
すると、バスやエレベーター、講演会など、似た特徴を持つ場面も避けるようになっていくのです。

さらに問題となるのが、予期不安です。
実際にはまだ何も起きていないのに、「あの場に行ったら不安になるかもしれない」と“先取りして”不安になることで、回避行動がさらに強まります。


回避行動を縮めていく第一歩:「安心の正体を知ること」

行動療法において、回避行動を縮めていく鍵は、「安心」とは何かを再定義することから始まります。
多くの人が「避けたことで安心した」と感じますが、それはあくまで一時的な安心感です。

行動療法では、この一時的な安心感を「偽りの安全」ととらえます。
本当に“安心して”暮らせるようになるには、「不安を感じながらでも行動する経験」が必要です。

この経験を通じて、「あれ?思っていたより大丈夫だった」「不安はあっても乗り越えられる」という正の学習が起きます。
行動療法でいう暴露(exposure)行動実験(behavioral experiment)は、こうした“安全ではないけれど、安全に感じられる”経験を意図的に積み重ねる方法なのです。


脱回避のコツ:小さな「行動」から始める

「じゃあ、どうやって最初の一歩を踏み出せばいいの?」とよく聞かれます。
答えはシンプルですが、とても大切です。

それは、“小さく・具体的に・繰り返す”こと。

たとえば、

  • 電車が怖いなら、まずは改札まで行ってみる。
  • スーパーが不安なら、夕方の空いている時間に短時間だけ入ってみる。
  • 人混みが苦手なら、公園の少し人が多いエリアを歩いてみる。

このような“小さな行動”を、自分で「やろう」と決めて、実行することが何より大事です。
そして、行動後には必ず「実際どうだったか」を振り返ること。これによって、予期不安と現実とのズレに気づけるのです。


結論:回避は広がる、でも「行動」もまた広げられる

回避行動は、意識しないうちに少しずつ広がり、私たちの生活を静かに狭めていきます。
でも、逆もまた真なりです。少しずつ「行動」を広げていくことで、縮まった世界を取り戻していくことは可能です。

行動療法の視点では、「安心してから行動する」のではなく、
「不安を持ちながら行動して、それでも大丈夫だった経験を積むこと」が、本当の安心につながると考えます。

「大きな一歩」ではなく、今日、「小さな一歩」を踏み出してみてはいかがでしょうか。
その一歩が、広がった回避行動の“逆回転”のスイッチになるかもしれません。