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有病率が1%とも言われるパニック障害ですが、そのうちの35~65%が広場恐怖症を併発していると考えられています。以前の記事で、治療を受けない場合にパニック障害はどのように回復するかを調べた研究についてお伝えしました。パニック障害が慢性化すると広場恐怖症を併発しやすく、すると自然回復が困難であると述べました。
今回は、治療を受けた場合、パニック障害は、どの程度回復していくのかについて調べたドイツの研究をご紹介したいと思います。
3タイプのパニック障害患者
Lukaschekら(2019)の研究では、パニック障害か、広場恐怖症を伴うパニック障害と診断された患者419名が参加しました。研究者らは、患者に対して、かかりつけ医とチームによる、4回の認知行動療法を23週間にわたって提供し、その間に10回症状の頻度や程度のチェックを行いました。そして得られたデータの分析の結果、治療を受けた患者の経過は3タイプに分類されることを見出しました。
初期の急速な改善が起こるタイプ(33%)
1つ目のタイプは、初期に急速な改善が起こる患者タイプです。治療を始めて3回目のチェックですでに症状の頻度や程度が半分にまで軽減しています。その後は、同程度の症状が維持されますが、最終的に再度症状の軽減があり、最初の1/3程度にまで症状が回復した患者タイプです(グラフの青線)。
全体と通じてゆっくりと改善が起こるタイプ(51%)
2つ目のタイプは、ゆっくりと改善が起こる患者タイプです。このタイプは、治療を始めて半分くらいまでは良くなったり悪くなったりを繰り返しながらゆっくりと改善しました。その後改善のスピードが高まり、結果的に最初の1/4程度にまで症状が回復しました(グラフの緑線)。
改善しないタイプ(16%)
3つ目のタイプは、あまり改善が起きないタイプです。治療を通じて症状の軽減と悪化を繰り返し、23週後にはほとんど軽減が見られませんでした(グラフの赤線)。
ここから言えることは次の2つです。
- パニック障害の症状の重さは、改善する、しないにあまり影響を与えない
- 自然には改善しない症状の重いパニック障害も、治療を受けることで治る可能性がある
詳しく本研究の患者データを見ると、改善しないタイプの患者は、統計的有意にうつ症状が強かった、また住まいが都市部であることがわかります。うつ症状が強いため治療への反応が弱い上に、日常生活の中で苦手な場面がより多い(電車など)ことが、何かしら改善しないことに関係していたかもしれません。
まとめ
本記事をまとめます。本記事では、ドイツで行われたパニック障害治療の研究を紹介しました。治療を受けた患者は3つのタイプに分けられることがわかり、改善が生じないタイプも16%見られました。パニック障害の重さ(広場恐怖症を伴うか伴わないか)で自然回復するかしないかが異なってくる知見もある中、この研究からは、パニック障害の重さではなく、うつ症状や刺激的な生活環境が、改善しない要因であることが考えられます。