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パニックに関して(良くも悪くも)色々と調べてしまう人は、パニック障害になりやすい性格についても調べたことがあるかもしれません。すると、医療機関のサイトなど、多数の情報が特定の性格を示しているのですが、検索の1ページ目に表示された公的機関のページで、次のようの表記がありました。

パニック障害に「なりやすい性格」はありません

あえて引用元はふせますが、実際はどうなのだろうと興味を持ちました。多くの医療機関が「恐怖心を煽る」マーケティングをしているのか、この公的機関の記述が、何かしらの目的で事実の一面だけを強調しているのか、それとも…と色々な可能性が頭に浮かんだので、調べてみることにしました。

本記事では、パニック障害になる人の性格、という題目について①性格(人格)パニック障害と人格の関連人格とパニック障害における縦断研究(長年にわたって被験者たちの変化を追う研究)について触れたいと思います。

性格(人格)について

まず、普段私たちが言う「性格」という言葉について触れます。心理学では性格という言葉は使わず、代わりに「人格」(personality)という言葉を使います。これは「特定の考え方、感じ方、振る舞い方を予測できる変化しにくい傾向」を指します。心理学では、こういった変わりにくいものを特性、そして変わりやすいものを状態と分けて考えます。私たちが使う性格という言葉は、特性も状態も含まれているものです。

人格を考える上で、心理学者たちは、人格の内訳を研究してきました。そして私たちが行き着いたのが、人格は5つの部分から構成されるという考え方です。この考え方はビッグ・ファイブ(big5)と呼ばれます。それらの5つの部分とは次の通りです(翻訳の仕方により多少名称が文献間で異なる場合があります)。

  1. 外交性:人といることや社会的な刺激を好む傾向
  2. 誠実性:目的を持って達成しようとする傾向
  3. 開放性:多様性、新しさ、変化を必要とする傾向
  4. 強調性:従順さや他人を優先する傾向
  5. 神経症傾向:悲しみ、無希望感、罪悪感などを感じる傾向

これら5つの部分で構成された人格が、どうパニック障害に関連するのか、次にお伝えしましょう。

パニック障害と人格の関連

少し古い研究となりますが、Malouffら(2004)は過去に実施されまとめられた、ビッグ・ファイブと精神障害の33研究を分析し、ビッグ・ファイブと精神障害にどのような関係があるかを改めて見出そうとしました。ここでは人格のそれぞれの5つの部分と、パニック障害含む不安障害がどのように関連しているかに絞って、その結果をお伝えします。それぞれの部分が、不安障害とどう関係しているかを下に示します。

  • 外交性:高い外交性と低い不安障害症状が関連
  • 誠実性:あまり関係はない
  • 開放性:あまり関連はない
  • 強調性:あまり関係はない
  • 神経症傾向:高い神経症傾向と高い不安障害症状が関連

つまり、すでに不安障害にかかっている人においては、外交性は低く、神経症傾向が高いという結果が見出されました。しかしこれは、不安障害、あるいは本記事の目的である「パニック障害になりやすい性格」を示しているわけではありません。不安障害及びパニック障害になると、その疾患のせいで、人格が変わることもあると報告されているためです。

この点を明らかにするためには、不安障害、あるいはパニック障害になる前となった後で、人格を調べる必要があるのです。それを調べた研究を次にご紹介します。

人格とパニック障害における縦断研究

2020年に出版されたPrinceらの研究を紹介します。Princeらはこれまでに認められていた、精神障害へのリスクファクターとしての神経症傾向、それと(低い)外交性を改めて調べました。大学生を対象に、入学時と6年後に人格を測定し、神経症傾向と外交性が、大学生活の中で生じた様々な不安障害や気分障害とどのように関連しているのかを確かめようとしました。

結果は、冒頭の「パニック障害になりやすい性格はない」を否定するような結果でした。入学時の神経症傾向が高いと、パニック障害を発症するリスクが高まることがわかりました。そしてパニック障害を経て6年後に再度人格測定を行うと、神経症傾向がさらに高くなっていることも見出しました。つまり、パニック障害になって、元々の神経症傾向が強まったのです。

結論

今回「パニック障害になりやすい性格はない」と公の機関がネット上に公開していた情報をもとに、パニック障害と人格の関連を調べました。すると、発症した状態とビッグ・ファイブの特定の部分(外交性と神経症傾向)との間に関連があることがわかりました。そして縦断研究を調べると、神経症傾向が高いと、パニック障害を発症しやすく、また発症により神経症傾向がさらに高まることがわかりました。以上から【パニック障害に「なりやすい性格」はありません】という公共機関の表記に対して、反する根拠があることがわかりました。