電車、スーパー、映画館などの共通特徴と心理
パニック障害を持つ方とカウンセリングをしていると、「行きたくても行けない場所」の話題になることがあります。電車やスーパー、映画館。いずれもごく日常的な場所ですが、パニック障害のある方にとっては、強い不安や恐怖と結びつきやすい場所でもあります。今回は、これらの場所がなぜ避けられるのか、そこにある共通点と心理的な背景について考えてみたいと思います。
パニック発作と「逃げられなさ」
カウンセラー(以下Co):最近、不安が強くなった場面はありましたか?
クライアント(以下Cl):はい、映画館で映画を観ていた時に、急に息苦しくなって、「ここから出られない」って思ったんです。周りの人の迷惑になるし、一人でパニックになってる感じがして。
Co:そのとき、どんなことが頭に浮かびましたか?
Cl:「もし倒れたらどうしよう」「誰も助けてくれなかったら」っていう考えが止まらなくなって…。心臓もバクバクして、早く出たかったけど、なかなか席を立てなかったです。
このように、パニック発作が起こりやすい場面には共通点があります。それは、「自由に出入りできない・逃げにくい状況」であることです。電車も映画館も、簡単には途中で立ち去れない空間です。スーパーも、広い店舗の中で「レジまで行かないと出られない」と感じる方もいます。
共通する「閉塞感」や「注目される恐怖」
避けられがちな場所には、以下のような共通点があることがわかっています。
- 閉鎖された空間(電車の車両、映画館の座席など)
- 他人が近くにいる状況(混雑、行列、狭い通路など)
- 自分に注目が集まるかもしれない不安(途中で退出すること、目立つ行動を取ること)
これらはすべて、「逃げ場がない」と感じさせる条件であり、脳が危険と判断しやすい状況です。パニック障害のある方にとっては、「いつ発作が起きるか分からない」=「この場で倒れたら…」という未来のイメージが一瞬で浮かび、それが不安の連鎖を生むのです。
「安全地帯」と「危険地帯」の分化
パニック障害の方の中には、自分の中で「安全な場所」「危険な場所」を自然と分類する傾向が見られます。たとえば、自宅は最も安全な場所とされる一方で、「誰かと一緒でないと不安になる場所」「一人では行けない場所」はどんどん増えていきます。これは、脳が「不安を避けよう」とする自然な防衛反応ですが、それによって生活範囲が狭まり、社会的な活動が制限されていくこともあります。
調査研究から見えてくること
McGinnisら(2023)の研究によれば、パニック障害を持つ被験者の多くが「特定の場所で発作を繰り返した経験がある」と回答しており、その多くが「人の目が気になる」「出にくい環境だった」と述べています。また、避けられる場所の中でも「予測不能な混雑」や「密室性」が高いと、発作の誘因になることが多いという報告もあります。
まとめ
今回は、パニック障害のある方が避けがちな場所と、その心理的背景についてお話ししました。電車、スーパー、映画館などに共通するのは、「逃げにくさ」「他人の目」「閉塞感」といった特徴です。これらは、パニック発作の恐怖を強め、避け行動を生む要因になりえます。ただ、こうした避けたい気持ちは「おかしいこと」ではなく、「脳が自分を守ろうとしている反応」でもあります。理解しながら、少しずつ安心できる経験を重ねていくことが、回復への一歩になります。
参考文献
McGinnis, E. W., Ross, A. R., Milad, M. R., & Rauch, S. L. (2023). Contextual Triggers and Environmental Predictors of Panic Attacks: A Real-World Study Using Ecological Momentary Assessment. Journal of Anxiety Disorders, 93, 102695. https://doi.org/10.1016/j.janxdis.2022.102695