パニック発作の辛さは人にはわからない。多くの体験者がそのように語ります。パニック発作は身体の苦痛も伴うので、例えば自律神経系の活動(心拍や体温)や行動(通常しないような差し迫った行為)などでも客観的にある程度は分かるものではありますが、パニック発作はそれだけではありません。内面で起きていることから大きな苦痛が生じるものです。
今回は、パニック発作に関する史上初の研究をご紹介したいと思います。パニック発作時の考えを質的に分析したHewittら(2021)による、パニック発作体験を解明するための研究です。

パニック発作時の考えは大きく6つに分類できる
Hewittらは15歳から19歳のパニック症状のある若者9名を被験者とし、パニック発作に関する詳細なインタビューを実施しました。インタビュー時の質問は、若者のパニック障害に関する文献や、その層の専門家の意見を参考にし、また精神的問題に苦しむ若者の体験に関する文献から作り出されました。被験者にとっての、パニック発作の体験とその意味を調べることが目的でした。
9名のインタビュー結果を分析したところ、6つの思考体験が皆に共通していることがわかりました。
- 自然災害への例え
- 分離
- 思考のコントロール感喪失
- 恥ずかしさ
- 周囲と切り離された感覚
- どうにかしようとする考え
それぞれ詳しくお伝えします。
自然災害への例え
被験者の若者たちは、パニック発作の体験を、自然災害(たとえば津波)で例えていました。自然災害の①起きそうな感覚②止められない感覚③圧倒される感覚、がパニック発作と似ていると感じていたようです。
私の知る体験者でも、パニック発作を「大きな黒い雲に完全に覆われるような感じ」と語ってくれた方もいました。自分を遥かに超えた大きな力が襲ってきて、どうしようもなく、ただただ打ちのめされる、そのような体験がパニック発作の際に、多くの人に起きるのでしょう。
分離
被験者の若者たちは、パニック発作時は、自分自身の考えが分離している(バラバラになっている)ように感じました。パニック発作はやがて終わるということが分かっている側面がありながら、他方で、これがずっと続くのではないかという確信もある、などです。自分が1つのまとまりではなく、自分の中に複数の別の自分がいるような感じで、異なった意見を自分に投げかけてくるような体験であったようです。
思考のコントロール感喪失
被験者の若者たちは、パニック発作時には、自分ではない何かにコントロールされている感覚を感じていました。思考がフル回転し、どんどんと嫌な考えが出てきて切り替えができない、という感覚を体験しがちなので心が壊れるのでは、気が狂ってしまうのではないかという恐怖を感じるようです。
恥ずかしさ
被験者の若者たちのパニック発作には、恥ずかしさの体験も伴っていました。発作を起こしている自分が、周囲の人たちに「おかしい人だ」と思われるのではないかと思い、見られたくない、知られたくない、と感じるようです。恥ずかしく感じ、隠れたいと思うがちです。
電車の中で倒れてしまったら、ととても心配になるパニックの体験者をたくさん見てきました。たくさんの人に「おかしい自分」を晒してしまうのでは、と考えるのは怖いでしょう。周囲の人たちの影響は、欧米(この研究が行われた場所)よりも日本の方がよっぽど強いと思われることを考えると、パニックに伴う恥ずかしさの体験は、日本ではとても大きいものであると思えます。
周囲と切り離された感覚
パニック発作はとても主観的な体験です。それは体験したことがない人や知識が十分でない人には、あまり理解されないものです。パニック発作を起こした被験者の若者たちも、そのように考えました。自分は周囲の人たちから誤解されるだろうと考え、頭の中にあった周囲の人たちとのつながりが途絶えてしまいます。また、パニックに囚われるため(パニックのことばかりを気にするため)孤立し自分の殻に閉じこもってしまう体験も、ありがちであるようです。
どうにかしようとする考え
被験者の若者たちは、パニック発作を起こした際「なんとかしなければ」という考えが頭に浮かんで来がちだったようです。パニックを少しでも落ち着かせようと、気を逸らしたり、その場所を離れたり、などありとあらゆる解決策を考えて実行できるものは実行しがちでした。
これは本能的な身を守る行為であると私は考えます。私の知る限りでは、おおよそ100%のパニックに悩む方が、発作が起きた時に考え、することです。なんとか、この危機を脱するために、できることを最後までするという姿勢は、生きる力そのものでだと思いますが、もがけばより沈むように、これをしてしまうと余計に発作に近づく、あるいは継続しがちです。
この研究で見出された6つの考え方は、10代の若者だけでなく、パニックに悩む多くの方に該当することであると報告されています。私の臨床経験には合致します。このような体験があることを知ると、少しでも体験者の苦しみを想像できることでしょう。
まとめ
本記事をまとめます。本記事では、パニック発作の体験を質的に調べた世界初の研究をご紹介しました。若者とのインタビュー結果から、パニック発作時の考え方は大きく6つに分けられ、それらは欧米の若者に限らず、日本の別の世代層でも確認できる現象です。
Hewitt, O. M., Tomlin, A., & Waite, P. (2021). The experience of panic attacks in adolescents: an interpretative phenomenological analysis study. Emotional and Behavioural Difficulties, 26(3), 240–253. https://doi.org/10.1080/13632752.2021.1948742