パニック発作を体験したことがある人は、その体験に強い恐怖を抱くようになり、その恐怖は増幅されていく傾向にあります。「死ぬよりも怖い」と表現する人もいる程、発作は恐怖を生み出す体験です。このように、パニック発作について知られているのは、体験者の生の声から、そして実験室でコントロールされた形で生じる発作の研究からです。実際(リアル)のパニック発作がどのような体験であるかは、とても研究しにくく、わかっていないところがほとんどです。
そんな中で、Mcginnisら(2022)は、モバイル機器を使って、実際(リアル)なパニック発作の体験を、生理学的に調べようと試みました。モバイル機器を使うことで、いつ起こるか予測できず研究が難しい実際のパニック発作を調べることに成功したのです。本記事では、その研究からパニックに苦しむ方に役立つ情報をご提供します。
パニック発作とは?
まずは、パニック発作に関する情報をお伝えします。パニック発作は、悩んでいる方は「自分だけ」と思いがちなところもありますが、実は28%の成人が一生涯で1度は体験するものであり、過去1年間で考えると11%もの成人が1度は体験しています。だからと言って「みんな一緒だ」と言いたいわけではありません。1度の発作の体験が、精神健康はもちろん、仕事や家計に多大な影響を与えることも分かっており、深刻な結末をもたらしがちです。
そんな発作は次のように定義されています。
数分のうちに最大まで高まる突然の強い恐怖や不快感
この定義からもわかるように、パニック発作は身体反応を伴う体験です。実験室での研究では、パニック発作の1分前から徐々に心拍が上がり、そして最大に高まった心拍が10分程度は続くことがわかっています。一方で、実際(リアル)のパニック発作の数少ない研究では、おおよそ半分のケースでしか、実験室で生じるような心拍の変化が生じません。このように一貫しない知見があるため、Mcginnisらはモバイル機器を使った研究に踏み出したのです。
実際(リアル)のパニック研究
Mcginnisらは、スマートフォンに着目しました。スマートフォンは多くの人が肌身離さず携帯しているもので、いつ起きるかわからないパニック発作をリアルな状況で研究するには、有用であるためです。彼らは、スマホで起動するアプリを作成し、そのアプリとスマホの機能(血流に伴う指先の色の変化をカメラで読み取るという光電容積脈波測定)を使って、パニック発作がリアルな状態で起きた時の心拍を測定しようと試みました。
下の折れ線グラフは、そのアプリを使用して測定したパニック発作時の例です。実践が心拍、点線が同時に測定した主観的な不安の度合いを示しています。縦軸が心拍(60~120)と不安(0~10)、横軸が時間(0~5分)です。例を見ると、心拍のピーク(山)が3度ほど起きています。0分(発作が来ると思った時)と3分、そして4分半です。
148人の被験者に1年の間、このアプリを使ってもらい、パニック発作の測定してもらいました。その中で基準に合うパニック発作のエピソードが50エピソードあり、それらをMcginnisらは分析しました。この分析結果が以下のグラフにまとめられています。まず、リアルで起こるパニック発作では、心拍が急激に上昇し、10秒のうちにピーク(98)まで増加します。そしてピークにとどまることなく、30秒程度で大きく減少(85)することがわかりました。またこの心拍の減少に伴って、主観的な不安の度合いも少しずつ軽減することがわかりました。
結果から何がわかるか?
この結果から何がわかるのでしょうか。総じて言えることは、心拍で見たパニック発作は、日常を超えた体験ではない、ということです。リアルな発作の研究では、予想されていた通り心拍の突然の上昇が生じました。そして30秒ほどで心拍が減少しました。しかし、これは日常生活内の範囲です。まず、被験者たちの日常活動時の平均心拍が85であり、ピークは、そこから15程度上昇した値です。これは、40代の成人が階段を上ったときに生じる程度の心拍増加でした。
この結果は、発作の体験を低く見るものではありません。実際、このデータは、パニック障害(発作を繰り返し起こしたり、その発作を恐れたりする)の人のデータではありません。発作を一度起こすと、それを恐れ、次の発作の体験が異なったものになります。つまり、より強く身体が反応し、より怖く発作が感じられる傾向があるように、臨床上は思えます。発作を起こせば起こすほど、発作の体験は苦しいものになると思われるのです。
一方で、このデータは、ある種の救いにもなります。「実際そこまで心拍が増加しないはずなのだから」と発作体験を客観的に見ることができるようになる情報であると思えます。実際、発作の客観視は、パニック障害からの回復の第一歩となるように、臨床上は思えます。
まとめ
本記事の内容をまとめます。本記事は、現実(リアル)のパニック発作に迫る研究を1つ取り上げてご紹介しました。いつ起こるかわからないパニック発作はとても研究の難しいものでしたが、スマホを使って研究することに成功しました。その結果、リアルな発作は、日常活動の範囲内の心拍の変動をもたらすものだとわかりました。この知見は、パニック問題に苦しむ人にとって、客観視ができるようになる1つの情報として役立つことでしょう。
McGinnis E, O’Leary A, Gurchiek R,Copeland WE, McGinnis R, A Digital Therapeutic Intervention Delivering Biofeedback for Panic Attacks (PanicMechanic): Feasibility and Usability Study JMIR Form Res 2022;6(2):e32982 doi: 10.2196/32982