パニック発作を起こす方の多くが、「このまま死んでしまうのではないか」と感じる場面を経験します。
この恐怖感は、発作のたびに繰り返され、体験者にとって強烈なストレス源となります。
パニック発作時には実際に心拍が上がり、息が苦しくなり、めまいやしびれを感じることがあります。こうした身体的変化は、死に至る病気や緊急事態と誤解しやすいものです。
けれども、実際には命に関わる危険性はありません。パニック障害は、体の病気ではなく「脳の誤警報」によって起きているものだからです。
死の恐怖を引き起こすメカニズム
パニック発作における「死の恐怖」には、いくつかの心理的・生理的要因があります。
- 身体感覚への過敏さ
→ 心拍や呼吸の変化を「異常」と捉えてしまう傾向がある - 誤った認知(認知の歪み)
→「これは心臓発作では?」「このまま気が狂うのでは?」という自動思考が生じやすい - 過去のトラウマや経験
→ 急な症状で救急車を呼んだ経験などがトリガーになることもあります
なぜ「死ぬかもしれない」と思ってしまうのか
パニック発作中の脳は、「危険が迫っている」という誤作動を起こしています。
これは、自律神経系が交感神経優位になっているためで、身体が「闘うか逃げるか(fight or flight)」モードに入っている状態です。
本来であれば、こうした反応は外的な危険(たとえば猛獣)に対する正常な防御反応ですが、パニック障害では「危険が存在しない状況でも」その反応が過剰に出てしまうのです。
その結果、「心臓がドキドキしている → 危ない → 死ぬかも」という思考の連鎖が生まれます。
臨床でよく見られる誤解と対応
私の臨床経験でも、「もうすぐ死ぬのかもしれない」と訴える方は少なくありません。
そのようなときに重要なのは、「死ぬことはない」と繰り返し伝え、身体の変化は“異常”ではなく“誤作動”であることを理解してもらうことです。
また、「それを感じるのはごく自然なこと」だと説明すると、患者さんの安心感につながることも多くあります。
まとめ
パニック発作の「死の恐怖」は、体験者にとっては現実であり、無視すべきものではありません。
しかし、それが“命に関わるものではない”という事実を知ることは、回復への第一歩となります。
「また来たらどうしよう」ではなく、「来ても大丈夫」と思えるようになるために、正しい知識を身につけ、焦らずに向き合っていくことが大切です。