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※本記事にはテキストを読み上げた音声があります

パニック発作は死ぬより怖い

パニック障害に苦しむあるクライアントさん

パニック発作は死ぬより怖い、という発言は大袈裟なのでしょうか。パニックに悩む多くの方が、パニックへの恐怖を感じ、徹底的にその恐怖を回避しようと生活の仕方を変えています。職場を自転車で通える範囲内に変えたり、車や電車に乗ることを一切止めたり、あるいは仕事も社会生活も完全にストップさせ、家の中にこもるなど。これほどまでさせるパニックの恐怖とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

”同じ体験をした人にしかこの辛さはわからない”

パニック発作のことを、そう語る方もいますが、パニック発作の怖さの本性を解き明かすべく研究している学者もいます。今回はそのような研究を2つご紹介し、パニック発作が怖い理由について、私見を述べていきたいと思います。

循環器系の症状がトラウマとなる?

まずは一般の方2000名以上へのアンケート調査と、パニック障害に悩む200名以上の患者さんに対するインタビュー調査(Pane-Farre et al., 2014)からご紹介します。この調査は、アンケートとインタビューを用いて、初めて起こしたパニック発作の体験を分析し、パターンを見出すものでした。

Pane-Farreら(2014)の調査によって分かったことは様々ですが、本記事の趣旨にあった1つの発見をご紹介します。調査のアンケート/インタビューでは、最初の発作体験にどのような症状がどの程度の重さで伴っていたかが尋ねられました。すると、パニック障害がより重い一般の方や患者の方は、最初の発作のエピソードで、全般的に高い症状を呈していましたが、特に循環器系の症状が、有意に深刻であったことがわかりました。つまり、心臓のドキドキがひどかったり、呼吸が苦しかったり、あるいは過呼吸を起こしたり、などです。別の言い方をすると、最初の発作の際、循環器系の症状を強く感じた場合、その後パニック障害になったり、また広場恐怖症を伴うパニック障害に発展していくことになる可能性が高い、ということを意味します。

このことから、パニック発作の”怖い”は、特に循環器系の症状に伴うものではないかと考えられます。では次に、その循環器系の症状が強いと、具体的にどのような怖さを感じるのかをお伝えしたいと思います。

コントロール感の喪失

Lundin(2020)は、オンライン上のパニック発作体験に関する200程度の投稿を分析しました。その分析を通じて、パニック発作の体験に関するいくつかのテーマが見出されました。その1つがコントロール感の喪失です。

パニック発作が生じると、それがただの発作であると分かっているにも関わらず、循環器系の症状含む数多くの身体症状が現れます。パニック発作を体験する人の頭は、それらのために、生と死の間に追いやられます。死に直面している状態で、普段のような冷静なあり方でいる人間はいません。つまり、自分自身をコントロールすることができなくなる感覚が生まれるのです。必死に携帯電話にしがみついて救急車を呼ぼうとしたり、意識を失ってしまうことや、死んでしまうことを恐れ、文字通り、叫んだりのたうちまわったり、または固まって動けなくなります。

私は飼い猫の最後を目撃したことが何度かありますが、その中の一匹の最後が、パニック発作でコントロールを失いそうになったり失ったりするのと酷似していると思っています。痩せ細り、もう動ける筋力もないはずなのに、最後の瞬間に、聞いたこともない大きな叫び声を上げ、体をくねらせながら高く飛び跳ねて、倒れるように着地し、そのまま動かなくなりました。

2つの調査から言えること

2つの調査結果から、パニック発作の怖さに関して言えることは、身体的な反応とコントロール感の喪失です。特に循環器系の症状により、生きるか死ぬかがその瞬間の唯一の関心となり、生きるための、もがき、が生じる瞬間が、パニック発作であると思います。生きるか死ぬかの時に、冷静な考えなどありません。水中に溺れれば、呼吸が苦しいのでもがき、なんとか水面に上がろうとしない人はいないでしょう。逆に言うと、そういう動きを手足にさせるために、沢山の酸素を全身に送ろうと、心臓は早く動きます。こういった危機にあるという身体の状態から、生と死の間を綱渡りしなければいけない感覚が生まれるのが、パニック発作の怖さの1つの側面であると言えます。

まとめ

本記事をまとめます。本記事では、Pane-Farreらの調査と、Ludinの調査から、パニック発作の怖さについて述べてました。初めての発作の際に、循環器系の症状が強く出ると、その後重症化する可能性があり、それは循環器系の症状のインパクトを示唆しています。そして、循環器系の症状は、私たちを生と死の間へ追いやるため、私たちはコントロールを失います。この体験がパニック発作の怖さの1側面であろうと言えます。

Pané-Farré, C. A., Stender, J. P., Fenske, K., Deckert, J., Reif, A., John, U., Schmidt, C. O., Schulz, A., Lang, T., Alpers, G. W., Kircher, T., Vossbeck-Elsebusch, A. N., Grabe, H. J., & Hamm, A. O. (2014). The phenomenology of the first panic attack in clinical and community-based samples. Journal of anxiety disorders28(6), 522–529. https://doi.org/10.1016/j.janxdis.2014.05.009

Lundin, L. (2020). Online narratives about panic attacks: interpreted within a psychodynamic framework. Social Work in Mental Health18(3), 349–365. https://doi.org/10.1080/15332985.2020.1744500