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本記事はテキストを音声で聞くことができます(約8分)

“333ルール”を聞いたことがありますか?

米国で流行り出している不安の対処法です。研究で効果が認められている類のものではありませんが、効果的であると当事者からの声が上がってきているものです。本記事では、この333ルールと、それに関連して不安の対処全般について、私見を述べたいと思います。

333ルール:パニック対処のためにする3つのこと

333ルールは、今ネット上で情報が溢れているホットな方法です。Meridian大学からは、333ルールは次のように紹介されています。

333ルールは、シンプルなグラウンディング(落ち着かせる)テクニックで…中略…素早くストレスを軽減することに役立ちます。この方法には、今おかれた状況で、見える物、聞こえる物、身体感覚が生まれる物をみつけることが含まれます。これを完了する頃には、今ここに戻り、不安が高まっていくことを防ぐことができるでしょう。

https://meridianuniversity.edu/content/grounding-techniques-for-anxiety

333ルールはとても単純な方法です。不安が高まっている時に、まず周囲を見回します。周囲には、目に映るものがたくさんありますので、目に映るものの中から1つ選び、その名前を浮かべます。次に別のものを選び、その名前を浮かべる。さらに再度別のものを選びます。そしてその名前を浮かべます。例えば、周囲を見回したら目の前に白いHONDAの車が見えたとしたら、”白いHONDAの車”などと浮かべるなどです。

見えるものの名前を挙げたら、次は周囲の音に耳を澄まします。そして聞こえるもの1つを選び、その音の名称を浮かべます。これも3回行います。例えば、耳を澄ますと、鳥の声が聞こえてきたとしたら、”鳥の声”と浮かべる、などです。

最後に体を動かします。体のどの部分を動かすかを決め、そこを動かしてその感覚を確かめます。例えば肩を回すことにしたら、肩を回し、その時に生じる肩周りの筋肉の動きなどの感覚を感じます。次に別の体の部分(例えば首)を決め、そこを動かします。その後にもう1つ体の部分を決め、そこを動かし、その感覚に注意を向けて感じます。

方法をリスト書にすると以下のとおりです。

  • 周囲を見回し見えるもの3つを選び名前を浮かべる
  • 耳を澄まし聞こえるもの3つを選び名前を浮かべる
  • 身体の部位を3つ選び動かしてその感覚に注意を向ける

このようにとても簡単な方法です。では、これらはどうして不安を和らげる効果があるのでしょうか?

危険の準備をする脳

脳の三層構造

不安は私たちを変貌させます。不安になった時、私たちは普段とは違った状態になります。落ち着いて冷静に考えれば分かることも分からなくなるし、できることもできなくなります。これは、不安を感じている時の脳状態が、冷静な時の脳状態とは大きく異なるからです。

私たちの脳は、進化の過程で、新しいものを古いものの上に築いていきました。こうして出来上がった構造は、3層構造と呼ばれます。最も下の層には、生命維持の活動を行う爬虫類の脳が横たわっています(図の緑色のトカゲ部)。その上に、行動の方向性を決める哺乳類の脳(真ん中のげっ歯類のような動物部)。そして一番上の層が、目的達成のために行動の微調整をする人間の脳(上の霊長類のような動物部)です。不安な時は、生命維持(爬虫類脳)と行動の方向性を決める(哺乳類脳)ことの、優先度が高くなり、計画を細かに立てたり計算したりして、行動を微調整する(人間脳)ことが難しくなります。生き延びるためのことを率先してしなければいけない、という状態です。

これは、本当に危険な時は役立ちます。横断歩道を渡っている際に、不注意な車がゆっくりと右折をしてきました。その際は、素早く横断歩道を渡り切るか、あるいは急いで引き返すことが、生命維持のためにすべきことです。こういう時は、爬虫類脳と哺乳類脳が命を守ってくれます。

一方で、不安を感じる多くの場合、命は危険にさらされていません。だから生き延びるためのことを率先してやらねばならない状態ではありません。まだ起きていないことに、準備できてしまうのが、私たち人間です。人間脳も巧みに活用して、まだ起きていない危険を思い、何ができるかを考えたり、事前に行ったりします。残念なことに、危険なことはまだきていないので、何をやろうとも、不安は消えることはありません。パニックの不安もこれに該当します。

今ここに戻る

危険への準備と不安、の運命を私たちは背負わされました。こういうことなので、333ルール含む、不安の対処が役に立ちます。333ルール含むそれらが役に立つのは、一言で言うと、“今ここ”、に私たちを引き戻してくれるからです。

前述の通り、不安は、危険なことに対する準備の産物です。危険な事は今ここでは起きていません。今ここ、というのは、”今この瞬間””この場所にいる”、ことを指しています。

私は今、パソコンの前に座り、タイピングをしています。今の私にとって、タイピングをしている際の、頭、体、心の動きを感じる瞬間が”今”にあたります。そして、秋の柔らかい日差しが入り込む事務所の窓際が”ここ”です。

今ここにいさえすれば、不安はありません。しかし、明日の仕事や来月の学会発表のことを考える(危険に対して準備をする)と、不安を感じます。でもそれは今ここで起きていることではありません。”今ここ”に戻りさえすれば、そこは安全であり、不安を感じる必要は一切ないのです。

333ルールは、今ここから離れて、爬虫類脳や哺乳類脳が暴走しているときに、”今ここ”に引き戻してくれます。今目に見えるもの、聞こえるものは、”今ここ”で体験するものです。もちろん、想像で昨日見た電車の中を思い出して、満員になっている様子や、電車が走る音を、ある程度は体験できます。しかし、リアリティに欠けます。今起きていることではないからです。また身体を動かして生じる感覚も、”今ここ”ではっきりと体験するものです。昨日の電車で気分が悪くなって座り込んだ時の、膝や腰の感覚は、今はリアルには感じられません。

333ルール含む対処法は、このように機能します。“今ここ”は、多くの場合安全です。不安を感じる必要のない、時空、なのです。333ルールは、私たちをそこに連れ戻してくれ、例え一時的であったとしても、心の安寧を与えてくれるのです。

まとめ

本記事では333ルールをご紹介しました。333ルールは見えるもの、聞こえるもの、そして体の動きを使った不安対処の簡単な方法です。今起きていな危険に対して準備をする副産物が不安です。この不安に対処するためには、今ここに戻ることが役立ちます。333ルール含む、他の多くの対処法は、今ここに戻る手助けをしてくれるという意味で、不安の軽減に役立つでしょう。