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当事者を殺して自分も死のうと考えていました

精神障害に限りませんが、家族一人の苦しみは、家族全体の苦しみともなります。もちろん、家族一人の喜びは、家族全体の喜びともなります。それが家族です。上記の記事のように感じる当事者の家族は少なくはありません。私も、直にその旨の話をたびたび聞くことがあります。

当事者の家族は、この旨の話を当事者にすることはしません。することで、罪悪感を感じやすい私たち日本人は、罪悪感が湧き上がり、そこから状態の悪化につながる可能性を想像するからです。この気遣いは「腫れ物に触るよう」に感じられ、孤独感を当事者は感じることにもなります。しかし、概ね負担になる刺激が抑えられているため、長期的に見ると役立つ関わり方です。当事者の家族は、この種の苦しみを本人には言いませんが、誰かに理解してもらう必要はあります。それが明日からの希望にもつながります。

本記事では、パニック障害の当事者の家族が実際にどの程度負担を感じているかについてのブラジルの研究をご紹介したいと思います。

パニック当事者の家族の負担:慢性身体疾患との比較

Detzelら(2014)は、パニック障害の当事者の家族の負担について調べました。当然のことながら、パニック障害の当事者がいない家族より、いる家族の方が負担はあります(冒頭の記事は統合失調症の当事者家族の記事ですが、読めばわかるでしょう)。その負担の度合いがどの程度なのか、慢性疾患(糖尿病、高血圧、心臓病など)患者がいる家族の負担と比べることにしました。

それぞれ70名弱の対象者に、負担の度合いと、家族環境について調べるための質問紙に回答してもらいました。負担の度合いに関する項目は、家族が主観的に感じるもので、項目としては、日常の手助け、問題行動の対処、心配が含まれます。家族環境については、例えば家族のつながり、喧嘩、言いたいことが言えるなどが調べられました。

以下の表に、主な結果を記します。

項目パニック慢性疾患
負担尺度日々の生活の手助け1.711.43
問題行動の対処2.792.81
心配3.013.07
環境尺度つながり7.257.58
喧嘩2.421.62
発言の自由4.574.33
パニック障害当事者の家族が感じる負担と家庭環境

では、表を見ていきましょう。表の上部が負担を測定した結果、下部が環境の結果です。上記のように負担尺度では、日々の生活の手助け以外は、パニック障害の当事者を持つ家族と、慢性身体疾患の患者を持つ家族と、同程度の負担であることがわかります。パニック当事者の家族が感じる日々の生活の手助けは、おそらくパニック発作の予期不安のため、行動範囲が制限されるので、それに対応することが含まれると思います。例えば(電車で行けないので)車での送り迎えを毎日する、などです。

環境尺度では、喧嘩の項目以外は、パニック当事者の家族も、慢性身体疾患患者の家族も同じ程度であることがわかります。上記のように、パニック当事者はパニック発作を恐れるので、一人で色々とできないことがあります。例えば電車に乗ることは難しいことも多く、車での送迎を、自分の時間とエネルギーを使ってすることになる家族の不満を掻き立てます。そう言ったことで、喧嘩が多いのでしょう。

まとめ

むすびにですが、今回の記事は、とても切実な問題であり、議論の対象となるべきことではありますが、書くことに抵抗を感じずにはいられませんでした。それは閲覧した方(特に当事者だとしたら)が「自分は家族に迷惑をかけている。それなら…」と悪い方向に考えるきっかけにもなりかねないからです。

これを書いていると、最近見た映画「室井慎次」が思い出されます。加害者家族の支援をする警察を引退した、寡黙で実に日本人らしい室井慎次が、酔っ払った際に、素面では恥ずかしくて言わないような発言をしていました。

「お前たち(支援対象の子どもたち)のことで悩むがのが楽しい。楽しい。」

家族は、負担はどうあれ、当事者を愛しています。

そしてこのような記事は、当事者自身が自分の在り方を客観視する機会にもなります。それはパニックの回復につながるきっかけになります。

別の問題として…

さらに、ですが。別次元の問題として、心情的な理由なのか、こう言った内容を論じる記事、あるいは学術論文が極めて少ないという事実があります。研究の対象として、この分野に興味を持つ人が純粋に少ない可能性もあります。しかし、臨床の場面では、切実に対処すべき対象としてあるのに対して、興味を持つ人が少ないことは考えにくいのです。精神障害を「家族の責任」として、そのケアを家族に委ねる雰囲気を作り出す狙い(誰の狙いかということはさておき)が、そこにはあるのではないかと思えてなりません。

Detzel, T., Wesner, A.C., Fritz, A., Silva, C., Guimarães, L.S., & Heldt, E. (2015). Family burden and family environment: Comparison between patients with panic disorder and with clinical diseases. Psychiatry and Clinical Neurosciences, 69.)