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心に効く最新の情報 BLOG

メンタルヘルス系の問題(いわゆる精神疾患)の中には、放っておいても自然回復するものも少なくありません。例えば、トラウマという言葉を最近聞くことが多いかと思いますが、トラウマ関連の問題(心的外傷後ストレス障害:PTSD)の症状は、時間の経過とともに軽減していくことが様々なトラウマ体験の研究(例えば東日本大震災後の調査など)から分かっています。

パニックはどうでしょうか。これに対しては良い知らせと悪い知らせがあります。良い知らせとしては、パニック障害は、自然回復することがある一方で、広場恐怖症を伴うパニック障害は、ほぼ自然回復することがないということです。それはすなわち、早期の介入が望まれることを意味します。

本記事では、パニックには早期の介入が望まれる(1)に引き続き、パニックの問題に対しては早期の介入が必要であり人生の救いとなる根拠について、以下の研究に基づいてお伝えしていきます。

Scott, A. J., Bisby, M. A., Heriseanu, A. I., Hathway, T., Karin, E., Gandy, M., Dudeney, J., Staples, L. G., Titov, N., & Dear, B. F. (2022). Understanding the untreated course of anxiety disorders in treatment-seeking samples: A systematic review and meta-analysis. Journal of anxiety disorders89, 102590. https://doi.org/10.1016/j.janxdis.2022.102590

パニック治療のメタ分析

Scottら(2022)は、欧米圏(アメリカ・カナダ・オーストラリア・スェーデン、その他)で行われた170以上の基準を満たした不安障害の治療研究(被験者は合計で15000人以上)を改めて分析し直しました。彼らが分析し直したのは、RCTと呼ばれる臨床研究(科学的に最も信頼できる研究)であり、その中で、不安障害の治療を受けなかった被験者たちの症状が研究期間にどのように変化していったかを調べました。その中で、パニック治療の研究は30(20%)含まれており、以下にお伝えする内容は、この30の研究の分析です。この中にはパニック障害の治療研究と広場恐怖症を伴うパニック障害の治療研究が含まれています。

広場恐怖症について

まずパニックの問題のバリエーションについてご説明します。ここでご紹介している研究では、「パニック障害」と「広場恐怖症を伴うパニック障害」とを別々に分析しています。違いは「広場恐怖症」があるかないかということですが、これがあるとないとでは生活への支障は大きく異なります。

広場恐怖症とは、パニック発作が起こるのではという強い不安のために、特定の場面(場所)に恐怖を感じ、いられないという状態です。パニックの問題を抱える多くの人が、電車を苦手とします。その場合、電車の中(あるいは電車に乗ることに伴う駅やその他の場所)が広場恐怖症の対象となり、恐怖を感じるため、いられない(行けない)となります。大抵の場合は、電車だとか映画館だとか、特定の場所が対象となりますが、家以外の全ての場所に恐怖を感じる、となるケースもあります。

想像するとわかると思いますが、例えば家から怖くて出られないとなったら、社会的な生活はかなり難しくなるでしょう。仕事に行けない、買い物にも行けない、また人とも会えない。様々なサービスが充実した現代ですから、在宅で仕事もできるし、またウーバーが食べ物も届けてくれます。またamazonが楽しい映画コンテンツも配信してくれます。生存はできるしある程度の楽しみも得られる。ただ、その生活は大きく制限されており、誰もが望むような生活ではないでしょう。そして、大事なこととして、広場恐怖症はパニック障害が長引いた結果(慢性化した病状)であると考えられています。パニック発作(怖いもの)を体験すればするほど、より怖さが増すのは想像に容易いでしょう。

症状の自然な推移

では上記を踏まえて、ご紹介している研究結果に戻ります。上記の研究では、合計30のパニック治療の結果をまとめて同じ基準で分析をしました。各パニック治療の研究は、おおよそ3〜4ヶ月のスパンで行われたものです。その間に、治療を受けなかった被験者のパニック障害の症状がどのように推移したのかを、Scottらは調べました。つまり、3~4ヶ月の間にパニック障害の症状が何もせずにどう変わるかを調べた結果である、と言うことです。では、どのような結果が出たかをお伝えします。

パニック障害の群では、治療を受けていないにもかかわらずその症状は改善し、その効果はg=.23で示されています。これは改善としては大きくはない(小)ですが、悪化や現状維持ではなく、改善を示しているのです。

一方で、広場恐怖症を伴うパニック障害を負った被験者(3~4ヶ月間治療を受けていない)の症状の推移はどうでしょうか。改善の程度を表す効果量ではg=.08と、とても低い値が示されています。これは、改善していないと言うことを意味します。

ここから考えられること

以上の結果から考えられることは次の通りです。

  • パニックは慢性化する(広場恐怖症を伴う)と自然に治っていくことがない可能性がある
  • 一方で、慢性化していないパニックは(自然にも回復するので)慢性化した状態と比べて治りやすい

問題点もあります。Scottらの研究では、治療を求めてやってきた人たちを治療を受ける群と、3~4ヶ月だけ治療を待ってもらう群に分けた研究を分析しました。つまり、治療を受けなかった人たちは、この後治療を受けることができるという期待や安心感も持ちつつ、待っているのです。すると、この自然回復が、本当に自然であるのか(つまり、治療を求めていな人たちでも同じような改善が起きるのか)は今後さらに調査が必要となります。

まとめ

本記事では、パニックの問題が長期化すると、回復が(少なくとも自然には)難しくなる可能性について、研究をご紹介しながらお伝えしました。パニックが慢性化すると広場恐怖症を伴います。これを伴った人たちは、自然に回復していく程度がほぼないと言って良いかもしれません。一方で、広場恐怖症を伴わない、慢性化していないパニックの問題は、自然に治ることもあり、故に治療を受けるとさらに改善が期待できるでしょう。