日本は地震大国とも言われます。驚くべきことに、世界で起きる大きな地震(震度6以上)の約2割が日本周辺で起きているとも言われています。気象庁のデータでは、近年の地震についての報告がありますが、数えきれない程の地震が起きています。
そういった地震に直面した時、その規模が大きければ大きい程、私たちは心身に影響を受けます。トラウマ症状が生じるのです。本記事では、トラウマ体験後の主な症状、そしてそれらに対して私たち皆ができることをご紹介しましょう。
目次
トラウマ体験直後の主な症状
トラウマ体験後、そのストレスにより様々な症状が現れることがわかっています。それらは人それぞれであり、体験者の脆弱性、トラウマ的事象の規模、喪失の量や数、またサポートの有無などによっても生じる症状の種類や程度が異なってきます。主に生じる症状と想定されるものを①苦痛な想起②過覚醒③回避④不眠、という4つに分けてご紹介します。
苦痛な想起
苦痛な想起には、トラウマ体験を思い出すことが含まれます。これは日中にふとした時、あるいは関連するものを見聞きして思い出すことや、睡眠中に夢の中で思い出す(悪夢を見る)こともあります。
過覚醒
過覚醒には、身体の動揺に伴う反応(落ち着きのなさ、心配、不安)があり、これが日常生活(学業や仕事)の質を大きく損ねます。
回避
トラウマ体験について、思い出したり考えたりすることを避けたり、あるいは思い出させるものに近寄らない(それ関連の活動をしない)などが回避に含まれます。また興味を失ったり、重要なもの事に取り組む意欲が失われたりすることもあります。
不眠
寝つきが良くない、寝続けられない、悪夢を見る、などがトラウマ体験後いずれかのタイミングでほとんどの人に生じます。特に過覚醒の症状が強い場合、同時に不眠も併発します。不眠が身体の不調につながり、他の症状(例えな苦痛な想起)を悪化させる場合もあります。
これらの症状が顕著に現れるようであれば、次に紹介するサイコロジカル・ファースト・エイドから役立つ手助けを体験者に提供することが役立つでしょう。大事なこととして、多くのトラウマ症状は時間と共に軽減していくことがわかっいます。サイコロジカル・ファースト・エイドによる援助によって、その軽減が加速されることも示唆されていますが、何か手を差し伸べないと改善が起きないわけではないことは知っておきたいことです。
私たちができること(サイコロジカル・ファースト・エイドより)
トラウマ体験直後にどのような介入が役立つかについての研究は、十分には進んでいません。援助の内容として、少数の研究が「役立つ」と示唆するのは①現在起きている苦痛を軽減させること②現実的な援助(食料など)を提供すること③社会的なつながりを作ること、が長期的な苦しみ(例えばPTSDの発症)を防ぐ可能性が示唆されています。そういった知見をもとに作られたのが、サイコロジカル・ファースト・エイドです。2023年のメタ分析からのデータでは、サイコロジカル・ファースト・エイドは、不安、うつ、ストレスや苦痛を軽減し、気分、安全性の感覚、つながり、コントロール感を高めることに役立つことが示唆されています(Hermosilla et al., 2023)。
サイコロジカル・ファースト・エイドでは5つの介入を必要に応じて行います。それらは①心理的安全性を高める②落ち着かせる③自己効力を取り戻す④つながり感を取り戻す⑤希望を高める、です。ここでは自然災害にあったことを想定して、それぞれおご紹介しましょう。
心理的安全性を高める
状況ごとに様々な手立てが考えられますが、以下のような援助をすることで心理的安全性を担保します。
- 安全な場所への避難
- 圧倒されている被害者を今の現実に引き戻す
- 基本的なニーズを満たす(食べ物、衣服、住まいなど)
- パーソナル・スペースを確保する
- 身体的な問題や怪我の処置を行う
- 復興や現状に関する正しい情報を提供する
落ち着かせる
睡眠や食事、意思決定を妨げるようなストレス反応を軽減させることを指します。具体的に以下のような手立てが役立ちます。
- 感情的な援助の提供
- 目先の問題に対する解決を援助する
- 落ち着くための情報を提供する(腹式呼吸など)
- 必要に応じた薬の提供(医師の判断が必要)
- トラウマ体験による喪失体験を促進させる
これには、心理療法からの知識や技術が役立ちます。被災者に寄り添って話を聞き、必要に応じて落ち着くための技法を実施し、身体感情体験を一緒に支えることが役立ちます。
自己効力を取り戻す
被災者に、この状況を乗り越える力があることを思い出し実感してもらう援助を指します。以下の方な具体的な視点が役立つでしょう。
- 被災者自身に起きている悪循環(破局的な考え〜回避行動など)を乗り越える資源を提供する(情報など)
- 自己効力があることを思い出してもらう援助(励ましや激励)
- 単純な問題解決を一緒に行う(一緒に考えて解決法に至る援助をする)
つながり感を取り戻す
人との繋がりは様々なポジティブな効果が期待できます。次のような具体的な方法が役立ちます。
- 家族との再会を援助する
- 友達や同僚、または頼りにしている人との再会を援助する
- 援助者として被災者の近くにいる。普通の社会的な人間関係を提供する(ちょっとした雑談など)
- 被災者とただともに一緒にいる
- 許容される様な笑いを提供する
希望を高める
被災者が本来持っている力を特定し、そこへの認識を強めるような関わりが希望へとつながります。例えば過去に似たような困難さを乗り越えた話を聞いたり、または過去にどの様な機能性を持っていたのか(会社でどんな役職で何をやっていたのかなど)の話を促すことが、希望を取り戻すことにつながります。
本記事のまとめ
本記事では、自然災害含むトラウマ的事象に直面した時に、どのように周囲の人たちを援助できるかについてのおおまかなガイドを提供しています。トラウマ記憶の想起、過覚醒、回避、不眠などの症状が現れている被災者に対しては、サイコロジカル・ファースト・エイドから、適切な介入をすることが役立つでしょう。必要に応じて、安全な環境を提供し、落ち着きを取り戻す援助をします。また自己効力を高め、人との再会を援助し、希望を作り出します。
Hermosilla, S., Forthal, S., Sadowska, K., Magill, E. B., Watson, P., & Pike, K. M. (2023). We need to build the evidence: A systematic review of psychological first aid on mental health and well-being. Journal of traumatic stress, 36(1), 5–16. https://doi.org/10.1002/jts.22888