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トラウマに苦しむ人にとって、回復のプロセスは「一人で乗り越えるもの」ではありません。むしろ、他者との関係の中で少しずつ安全を取り戻していく過程であると言えます。

しかし前回の記事でも述べた通り、トラウマは「人を信頼する力」や「相手の意図を適切に受け取る力(社会認知機能)」を低下させます。つまり、本来であれば支えになるはずの他者の存在が、時に「怖いもの」「信じられないもの」として感じられてしまうのです(Janssen, 2022)。

そのため、周囲の人の関わり方は、回復を助けることもあれば、逆に難しくしてしまうこともあります。

本記事では、トラウマを抱える方に対して、周囲の人ができることについて整理していきます。


サポートの仕方:まずは「安全な関係」をつくる

トラウマの回復において最も重要なのは、「この人は安全だ」と感じられる関係です。

そのために有効なのが、いわゆる「傾聴」と「否定しない態度」です。

傾聴とは何か

傾聴とは、単に話を聞くことではありません。

  • 話を遮らない
  • 評価しない
  • 理解しようとする姿勢を持つ

といった態度を通して、「あなたの体験はここにあっていい」というメッセージを伝える関わりです。

トラウマを抱える人は、自分の体験を「理解されないもの」「受け入れられないもの」と感じていることが多くあります。だからこそ、内容を変えようとするのではなく、「そのまま受け取る」ことが重要になります。


否定しない態度

例えば、以下のようなやり取りはよく見られます。

  • 「気にしすぎだよ」
  • 「もう終わったことじゃない?」
  • 「考えすぎだと思う」

これらは悪意がなくても、本人の感じている現実を否定する関わりになってしまいます。

トラウマにおいて重要なのは、「客観的にどうか」ではなく、「本人がどう感じているか」です。

そのため、

  • 「そう感じるんだね」
  • 「それはつらかったね」

といった形で、まずは体験をそのまま認めることが、関係の安全性を高めます。


NG対応:よかれと思ってやってしまうこと

周囲の人が善意で行っている行動でも、トラウマを抱える人にとっては負担になることがあります。

急かす

  • 「そろそろ大丈夫でしょ」
  • 「前に進まないと」

回復には個人差があります。急かされることで、「回復できていない自分はダメだ」という二次的な苦しさが生まれてしまいます。


助言しすぎる

  • 「こうした方がいいよ」
  • 「〇〇をやってみたら?」

助言は一見役に立つように見えますが、タイミングによっては「理解されていない感覚」や「コントロールされている感覚」を強めます。特にトラウマ体験を持つ人は、他者によって感覚を侵害された経験を持つことが多く、過度な助言は逆効果になることがあります。


無理にポジティブにする

  • 「いい経験になったんじゃない?」
  • 「そのおかげで成長できたよね」

こうした言葉は、本人の苦しさを飛ばして意味づけを押し付ける形になります。意味づけは、回復の過程の中で本人の内側から自然に生まれてくるものです。


「寄り添い」とは何か

では、適切な関わりとは何か。それを一言で表すと「寄り添い」です。

寄り添いとは「変えようとしない関わり」

寄り添いとは、「相手を今の状態から変えようとすることを一旦手放す」姿勢です。

  • 元気にしようとしない
  • 前向きにしようとしない
  • 解決しようとしない

その代わりに、「今ここでの体験」に関心を向け続けます。


寄り添いとは「安全の体験を共有すること」

トラウマの本質は、「安全が壊れた体験」です。

そのため回復には、「人と一緒にいても大丈夫」という体験の積み重ねが必要になります。このような関係性の中で、神経系レベルでの安全の再学習が進むと考えられています(Donadon, 2018)。


寄り添いとは「わからなさを保つこと」

もう一つ重要なのは、「わかったつもりにならない」ことです。

  • 「つまりこういうことでしょ?」
  • 「あなたは〇〇なんだね」

こうした関わりは、相手の体験を固定してしまう可能性があります。

むしろ、

  • 「まだ全部はわからないけど」
  • 「もっと知りたいと思っている」

という姿勢が、関係の中に安全な余白を生みます。


本記事のまとめ

トラウマを抱える人に対して、周囲の人ができることは決して特別な技術ではありません。

  • 傾聴すること
  • 否定しないこと
  • 急がないこと

こうしたシンプルな関わりが、「安全な関係」をつくります。

そしてその背景には、信頼や絆の形成の困難さや、オキシトシンの働きの変化といった生理的要因も関係しています。

だからこそ、関係の中で安全を繰り返し体験していくことが、回復の土台となるのです。


参考文献

Janssen, P. G. J., van Est, L. A. C., Hilbink, M., Gubbels, L., Egger, J., Cillessen, A. H. N., & van Ee, E. (2022). Social cognitive performance in posttraumatic stress disorder: A meta-analysis. Journal of Affective Disorders, 297, 35–44. https://doi.org/10.1016/j.jad.2021.09.082

Donadon, M. F., Martin-Santos, R., & Osório, F. L. (2018). The Associations Between Oxytocin and Trauma in Humans: A Systematic Review. Frontiers in Pharmacology, 9, 154. https://doi.org/10.3389/fphar.2018.00154