トラウマを経験した大人にとって、日常生活の中で安心感を回復し、心身のバランスを整えるためのセルフケアは重要な役割を果たします。セルフケアとは、専門的な治療とは別に、自分自身で、あるいは周囲の支えを受けながら、心身の安全と安定を保つための方法を指します。
トラウマ体験は語りにくいものです(語れない、語りたくない)。そんな中で、セルフケアは回復の土台を整えるための基本的な取り組みであるため、語れない、語りたくないという状態でも、回復に役立ちます。
ここでは、トラウマを抱える大人にとって比較的安全で、日常生活に取り入れやすいセルフケアの方法についてお伝えします。
呼吸法・グラウンディング・マインドフルネス
トラウマを経験した人は、危険が去った後も身体が緊張状態を保ち続け、常に警戒しているような感覚を抱くことがあります。その結果、不安、イライラ、集中困難、睡眠の問題などが生じやすくなります。
呼吸法は、こうした過覚醒状態を和らげるための基本的なセルフケアです。ゆっくりとした深い呼吸を意識的に行うことで、自律神経の働きが整い、身体が「今は安全である」という情報を受け取りやすくなります。
グラウンディングは、過去の出来事や強い感情から距離を取り、「今ここ」に意識を戻すための方法です。例えば、足の裏の感覚に注意を向ける、周囲に見えるものや聞こえる音を一つずつ確認する、手に触れている物の感触を確かめるといった方法があります。
マインドフルネスも、現在の体験に注意を向ける実践として有効とされています。必ずしも瞑想の形を取る必要はなく、歩行中の身体感覚や、食事の味・匂いに意識を向けることも含まれます。重要なのは、評価や判断を加えず、今の状態をそのまま観察する姿勢です。
セルフ・スポッティング
セルフ・スポッティングは、NEXTカウンセリングでも実施するブレインスポッティング®︎を自分で実施するための方法です。
本来トラウマを克服するための方法なので、トラウマを扱うための工夫が取り込まれており、それを利用し「ストレス軽減」を目的とします。
上記にもある「今ここ」への集中を強めることで、意識から離れにくい過去の出来事などを「引き剥がし」「しばらく離れている状態を作る」機能があります。
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000365614(出版社サイト)
日記やアート表現などの安全なアウトプット
トラウマ体験は、語りにくい(言葉として整理されにい)ため、感情や身体感覚として内側に留まりやすい特徴があります。そのため、内側に溜まった体験や感情を安全な形で外に出すことが、回復の一助となります。
日記を書くことは、感情や思考を整理するための有効な方法のひとつです。出来事を詳細に書く必要はなく、「今感じていること」「身体の調子」「気分の変化」などを短く記すだけでも意味があります。無理にポジティブにまとめる必要はありません。
また、絵を描く、音楽を聴く・演奏する、文章を書く、手仕事をするなどのアート表現も、安全なアウトプットとして活用できます。これらの活動は、言葉にならない感情や感覚を表現する手段となり、内的な緊張を和らげることが期待されます。
重要なのは、表現の出来栄えや意味を評価しないことです。自分の内側にあるものを外に出すという行為そのものが、セルフケアとしての価値を持ちます。
境界線を守ることの大切さ
トラウマを経験した大人にとって、「境界線」は特に重要なテーマです。境界線とは、身体的・心理的に「どこまでが自分で、どこからが他者か」を区別する感覚を指します。
トラウマ体験では、この境界線が侵害されることが多く、その影響として、人との距離感がわからなくなったり、断ることが難しくなったり、逆に過度に人を遠ざけてしまうことがあります。
セルフケアとして、自分の境界線を意識し、守る練習をすることは回復において重要です。例えば、「今は話したくない」「これは引き受けられない」といった感覚に気づき、それを尊重することが第一歩となります。
他者との関係においても、自分のペースや限界を認めることは、わがままではなく、心身の安全を保つために必要な行為です。境界線が守られる体験を重ねることで、安心感と自己信頼が少しずつ回復していきます。
セルフケアにおける留意点
セルフケアは、トラウマを完全に解消するための手段ではなく、回復を支えるための基盤です。症状が強い場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合には、専門的な支援と併用することが重要とされています。
また、セルフケアは「頑張って行うもの」ではありません。うまくできない日があっても問題はなく、その時点でできる範囲を尊重することが大切です。
セルフケアとは、自分を管理することではなく、自分の状態に気づき、労わる姿勢を育てていくプロセスと考えられています。小さな安心の積み重ねが、長期的な回復につながっていきます。