1995年3月20日衝撃の事件が全国を震撼させた。地下鉄で神経ガスであるサリンが散布され、14人が死亡、6300人が負傷した。この「地下鉄サリン事件」の首謀者である麻原彰晃は、程なく逮捕され、2018年に「日本史上における最も凶悪な犯罪者」に対して死刑が執行された。
麻原彰晃(本名:松本智津夫)は非常に貧しい幼少期の生活を送った。農業機器を盗んだり壊したりするなどで、親代わりの兄姉に叱られながら育った。目が不自由であり、片目は見えるものの、貧しかったための口減しであったかのか、盲学校に入れられ親元を離れることになった。智津夫は見捨てられを体験し、そしてその後両親は仕送りや面会などもなかった学生時代を過ごした。また当時の盲学校は「暴力で支配される」環境であった。
この例では、幼少期のトラウマ(この場合は先天的な病気や貧しさ、親からのネグレクトや離別、暴力の目的)、児童期の不適応行動、そして大人になってからの犯罪のリンクが垣間見られます。トラウマとは心の傷を指し、心身への害、あるいは恐怖が伴う出来事への暴露の際に生じるものです。トラウマ症状とは(子ども)でも書きましたが、虐待、ネグレクト、家庭内暴力、両親の離婚などによる別れ、死別、学校や地域で体験や目撃をする暴力、大きな怪我や事故、重篤な疾患などが一般的にはそういった体験にあたります。
この例のように、幼少期のトラウマ体験と、大人になってからの犯罪には関連が見出されています。また、トラウマ体験の影響もあって、児童期の不適応な行動と大人になってからの犯罪にも関連が見出されています。本記事では、大人になってからの犯罪に関連している、児童期の要因(Leschied et al, 2008)についてお伝えし、その1つの要因である「外在化の問題と内在化の問題」を測定する尺度をご紹介します。
児童期の不適応行動と大人の犯罪:縦断研究のメタ分析
Leschiedたちは、子どもたちの成長を追った研究(縦断研究)を38件集めました。そしてそれらの研究に含まれる66674人の被験者たちについて「児童期の不適応行動と大人の犯罪」の関係性を分析しました(メタ分析)。その結果幾つか「リスク要因」が浮き彫りになりました。それらは概して「中程度」将来の犯罪を予測しますが、年齢が低い(6歳以下)の場合は該当せず、年齢が高くなるにつれて、それらの要因はより濃厚に将来の犯罪を予測するものであると示唆されました。それらの要因は大きく2つ(遺伝など「動かしようのない要因」と友だち関係など、「子どもの生活の中で変化する要因」)に分けられますが、ここで対応しやすい後者について詳しくお伝えします。
子どもの生活の中で変化する要因
これらの要因は大きく分けて①子どもの特性や状態②家庭の在り方が認められました。それぞれもう少し詳しくお伝えします。
子どもの不適応行動
子どもの不適応行動には2つの種類があります。1つが、外在化された行動。もう1つが内在化された行動です。
外在化された行動とは、表出し客観的に認めやすい行動のことを指します。冒頭の麻原彰晃は、子どもの頃農業機器を盗んだり、壊したりしていたと記録されています。これは外在化された行動です。他に例を挙げると、他の子と喧嘩をしが阿智であったり、他の子をいじめたり、暴力を振るったり、また落ち着きがなかったりなどです。内在化された行動とは、外には表出しにくく、客観的に認めにくい行動のことを指しいます。例えば抑うつ、心配、または恐怖などです。
Leschiedらのメタ分析によると、子どもの不適応行動の要因は、外在化されたものは中程度の強さで将来の犯罪を予測します。内在化された行動は小さくはありますが、将来の犯罪を予測可能な要因です。別の研究では、外在化・内在化された行動を両方を示す子どもは、それぞれ片方だけよりも、さらに将来の犯罪が予測できると示唆されています(Commisso, et al., 2024)。この研究で作られた尺度をフォームにしましたので、ご興味のある方は、こちらにご回答してみてください。
家庭の在り方
家庭の在り方の要因には、いくつか予測できる要因が見出されました。まず一般的にも明らかなものとして、虐待が挙げられます。これはたくさんの研究で示唆されている要因です。次に福祉に関与していること、両親の不仲や離婚問題(中程度)が将来の犯罪を予測します。そして親の子への関わり方として、強制、一貫性のなさ、指導・監督不足(特に思春期)が中程度将来の犯罪を予測することが示唆されています。
本記事のまとめ
本記事では、幼少期にトラウマ体験に関連して、児童期の不適応行動が、将来の犯罪を予測する可能性についてお伝えしました。外在化された行動や内在化された行動が認められ、そして家庭環境が望ましくないようであれば、その子の人生のために、何かしらの援助が必要になります。記事内の尺度を参考に、子どもたちが将来の犯罪者になるリスクを減らす努力を、大人である我々は心がけたいものです。
Chung, I.-J., Hill, K. G., Hawkins, J. D., Gilchrist, L. D., & Nagin, D. S. (2002). Childhood Predictors of Offense Trajectories. Journal of Research in Crime and Delinquency, 39(1), 60-90. https://doi.org/10.1177/002242780203900103
Vergunst, F., Commisso, M., Geoffroy, M. C., Temcheff, C., Poirier, M., Park, J., Vitaro, F., Tremblay, R., Côté, S., & Orri, M. (2023). Association of Childhood Externalizing, Internalizing, and Comorbid Symptoms With Long-term Economic and Social Outcomes. JAMA network open, 6(1), e2249568. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2022.49568