トラウマ事象は、時代場所問わず起きるものです。そんな中でも全ての人が、その事象にその後も強く影響を受けるわけではありません。本記事では、トラウマ症状の移り変わりについてお伝えします。トラウマ体験後の症状はトラウマ症状とは(大人)とトラウマ症状とは(子ども)の記事を参考にしてください。
なお、本記事は、ISTSS(国際トラウマ後ストレス学会)を参考にして作成してあります。
トラウマ体験への3種類の反応
アメリカに留学していた頃の出来事です。自習をしようと図書館の中に入ると、エントランス付近の大きなモニターの前に人だかりができていました。そこにいた同じクラスの学生が僕に駆け寄り「ニュース見たか?」と怯えた表情で話しかけてきました。彼はモニターを指差したので、目をそちらに移すと、そこには高いビルに飛行機が衝突し、崩れ落ちる様子が映し出されていました。9.11です。モニター周辺に集まっていた人たちは、大きく動揺をしていたようでした。あちこちから”God…”や”Jesus Christ…”などとつぶやきにも近い声が聞こえ、静かにあるいは声を上げて泣いている人もいました。
研究でわかっていることは、実際に9.11をニューヨークで体験した、あるいは繰り返し映像などに暴露された多くの人が、その後落ち着きを取り戻すというとことです。一方で、この体験により後まで影響を受け続ける人もいます。こういったトラウマの科学的調査から、トラウマ体験には3種類の反応があることがわかっています。それらは次の通りです。
- トラウマ体験から大きな影響を受けない
- トラウマ体験後の数週間にトラウマ症状、あるいはPTSD症状を体験するも、それらの症状が軽減する
- トラウマ体験の影響が消えず、PTSDなどを発症する
誰にどの反応が起こるかには、様々な要因が含まれていると考えられます。事象の深刻さや体験者の脆弱性などありますが、75%の人は、レジリエンスと呼ばれる心理的な耐性を持ち合わせており、1か2の反応を呈すことがわかっています。つまり、多くの人が、world trade centerが崩壊したテロ事件を直接的間接的に体験しても、長期的な問題は起きないのです。
以下、1と2を合わせて75%の人たちの反応と3の人たちの反応を別々にさらに詳しくお伝えします。
トラウマ事象に対する長期的な影響のない人たちの症状変化
この種の人たちのトラウマ症状/PTSD症状の変化は次の折れ線グラフで言い表せます。つまりトラウマ症状/PTSD症状は自然に減少するということです。グラフを解説していきましょう。
このグラフの縦軸がトラウマ事象を体験した中で、PTSDの診断基準を満たす程度の症状がある人の割合を示しています。
グラフの太い実践は、性的暴行を受けた方たちのPTSDの割合です。トラウマ体験1ヶ月後では75%程度の方たちがPTSDと診断される程の症状を呈しています。しかし、時間の経過とともにPTSD症状を呈する人へ減少します。トラウマ体験6ヶ月後では、50%、12ヶ月後には40%まで減少します。
別の種類のトラウマ体験(子どものトラウマ体験【点線】、自然災害などの意図的でないトラウマ体験【破線】)も同様に時間とともにPTSDと診断される状態にいるトラウマ体験者の数は減少傾向にあります。ただ、意図的であるトラウマ体験(暴力など【二重線】)におけるPTSDは時間と共に増加傾向であり、トラウマ体験の種類によっては、体験の影響が減少していかないものもあるようです。
トラウマ事象に対する長期的な影響のある人たちの症状の変化
上記のように、トラウマ事象の種類によってはトラウマ症状/PTSD症状が減少していかないこともありますが、トラウマ体験の影響を長期的に受ける人たちにとって、それ以上に悪いニュースがあります。ただ長期的に影響を受ける(慢性化)だけでも辛いところではありますが、コロナ感染症のパンデミック研究(Solomon, Mikulincer, Ohry, & Ginzburg, 2018) では、トラウマ症状/PTSD症状が慢性化している人は、さらに別のトラウマ事象にも脆弱である(つまり別のトラウマを負いやすくなる)ことがわかっているのです。
トラウマ体験をし、その症状が軽減していない場合、さらなるトラウマを避けるために、いち早くトラウマを解決していく必要性があるということを示唆しています。
本記事のまとめ
本記事では、トラウマ体験後のトラウマ症状/PTSD症状の移り変わりについてお伝えしました。多くの人(75%)においては、レジリエンスのおかえでトラウマ症状/PTSD症状は自然に改善していくことがわかっています。一方で、改善が起きずトラウマ症状/PTSD症状が慢性化する人たちは、さらなるトラウマのリスクに晒されていることがわかっています。